トップページ > 木造トラス 構造設計の注意点

木構造研究室

木造トラス 構造設計の注意点

こんにちは。中大規模木造に特化した構造設計事務所 木構造デザインの福田です。

トラス構造に関するセミナーを昨年末に開催し、基本的な計画の流れを解説しました。

多くの参加者の方から参考になったという声をいただきましたので、今回、紙上セミナーという形式で紹介したいと思います


目次
構造検討の流れ まずは課題の洗い出し
通直材で対応するか?トラスで対応するか?
20mの大スパン 通直材とトラスどっち?
通直材で難しい場合
5mのトラス成が必要?!
木材は圧縮に強く、引張に弱い
まとめ


構造検討の流れ まずは課題の洗い出し

トラスや大空間の構造検討も、課題を洗い出すことからはじめます。

木造は住宅で成熟してきた市場のため、大空間の非住宅であっても、構造計算は木造住宅の基準をベースに考えます。そして、その基準から外れるものを課題として洗い出します。

■木造住宅の基準サイズ

木造住宅の基本サイズは、2階建て200㎡、10m×10mの総2階で、10mを2分割、3分割にした、3mから5mくらいの柱割です。柱のサイズは105角か、120角。細長比を考慮すると、階高は3m~3.5mくらいになります。


この住宅の基準サイズから外れるものを、柱・壁、梁、水平構面の順番で検討していきます。


<関連コラム>ケーススタディで学ぶ 大空間施設 木構造の考え方【前編】

<関連コラム>ケーススタディで学ぶ 大空間施設 木構造の考え方【中編】

<関連コラム>ケーススタディで学ぶ 大空間施設 木構造の考え方【後編】


一般的な木造住宅は最大でも6mくらいまでのスパンです。しかし、非住宅の場合、10m、あるいは10mを超えるスパンになることがあります。基準から外れるスパンになった時、まず検討するのが、通直材で対応するか、トラスにするのかということです。


中大規模木造に取り組むべき理由とその取り組み方

この資料では、下記の内容を紹介しています。

  • どのように非住宅木造に参入するか?
  • なぜ、中大規模木造が注目されているのか?
  • なぜ、500㎡を超えると木造化率が低下するのか?
  • 中大規模木造で失敗しない5つのポイントとは?

無料ダウンロード


通直材で対応するか?トラスで対応するか?

まず、通直材とトラスの特徴を見ていきます。

長スパンの通直材は一品生産になるため、部材コストが高くなります。それに対して、トラスは流通材を使うので部材コストを抑えることができます。ただ、工場で組み立てて運ぶ場合は施工費や運搬費、地組する場合は施工費に注意が必要です。


また、接合部の金物も、パーツ数が多くなる分、トラスのほうが加工費など割高になります。計算料も、特殊な解析が必要な場合は、追加費用が発生します。双方にメリットとデメリットがあるので、案件毎に比較検討する必要があります。

20mの大スパン 通直材とトラスどっち?

では、具体例で見ていきます。 

例えば、20mの大スパンを通直材とトラス、どちらにするかを検討します。まず、概算で通直材の梁成がどのくらいになるかを計算します。一般的な屋根荷重で、2mピッチで通直材を配置すると、1/18~1/20が超概算の目安です。算出すると、梁成が1m必要になります。

梁成が1mになると梁幅も150mmは必要になります。

20mのスパンを1本もので計画すると、このサイズ感の集成材を作らなければなりません。材料費や運搬費を考えると、現実的とは言えません。

鉄骨で成立している大スパンのプランをそのまま木造に置き換えようとすると、どうしてもこのような大断面を使うことになり、割高の構造躯体がなってしまうことがあります。できるだけ梁成が、このようなサイズにならないように計画します。

通直材で難しい場合

1本ものの通直材が難しい場合は、トラスを検討します。屋根や床にトラスを取り入れ、大きなスパンを飛ばしていきます。


トラスを提案するときに注意しなければいけないのが、トラス成が必要になるということです。

そのトラス成で、意匠的に成立つようにしなければなりません。

5mのトラス成が必要?!

1つの例になりますが、先程の20mのトラスを成立させるために、5mのトラス成が必要になりました。これだけのトラス成が意匠的に問題にならないか、早い段階で確認する必要があります。


トラス成を抑えて計画することもありますが、突っ張る材料の角度を寝かせてしまうと、耐える力が弱くなるということは感覚的にお分かりいただけると思います。

1本の部材で様々な力を伝達させる通直材とは違い、トラスは繋ぎ合わせた部材の引張と圧縮で抵抗します。トラスの形態や荷重の条件で引張と圧縮が異なるため、構造設計では、部材を見極めて、レイアウトしていきます。構造設計者はこのようなところを見ながら、部材や接合部を決めています。

構造計算は内製化?外部化?【4号特例ショックで待ったナシ!】

この4号特例の縮小によって、構造への関心が高まっています。「構造計算を内製化したほうがいいのかな」と考える方も増えているのではないでしょうか? 今回、そのような方のために構造計算を内製化する際の注意点、また、外部に委託する際の構造設計事務所の選び方を詳しく解説します。続きを読む

木材は圧縮に強く、引張に弱い

トラスの注意点として、木材は圧縮力には強く、引張力には極端に弱いということがあります。これも感覚的にお分かりいただけると思います。

木は押し潰そうとしても潰れませんが、例えば、木をピンで固定し、引き抜こうとすると、割れて強度が失われます。構造設計上、できるだけバキっと割れて壊れない仕組みを考える必要があります。

脆性的な破壊と構造では言います。脆性破壊を起こさないような力の流れ、強度を把握しないと、大スパンの建築物を作る時は、事故に繋がりかねません。


トラスは接合部が多く、納まりによって力の伝え方も異なります。力の伝わり方を見ながら接合方法を選択していきます。なるべく、長期的に引張の力がかかるような部材を極力少なくすることが重要です。

どうしても引張材が必要になる部分は、金物等を入れながら、抵抗させます。ただ、小さな材料を使う際は、金物のサイズ、木が割れないような位置にボルトを入れるなど、脆性的な破壊をまねく接合部にならないように注意が必要です。


トラスの引張材の接合には耐力に余裕を持たせることが重要です。大きな力は圧縮や、めり込みを中心に伝えるようにトラスを計画すると変形を抑制しやすいです。

まとめ

トラスにするにはトラス成が必要です。強い圧縮力と引張力がかかるので、抵抗する加工を考えなければなりません。接合部が弱いと変形という現象が出やすくなります。そのため、解析を通して、変形量や力の流れを把握することが必要です。


負担をさせる耐力は配置ピッチでコントロールができます。ただし、配置ピッチが増えると当然材料や固定するための金物も増えます。コストとのバランスを考える必要があります。


トラスは専門知識が必要です。計画の際は、どうぞお気軽にご相談ください。

➡木構造デザインに相談してみる

|関連記事

構造計算は内製化?外部化?【4号特例ショックで待ったナシ!】

木造倉庫 構造の考え方

4号特例縮小 2025年の法改正に向け建築士が準備することとは?

福田 浩史

  • 構造設計一級建築士/コンクリート技士
  • 株式会社木構造デザイン代表取締役社長

1999年三重大学大学院工学研究科・建築学専攻・修士課程修了、同年4月に熊谷組入社、構造設計部に配属。主に鉄筋コンクリート造や鉄骨造の高層マンション、店舗設計など大型建築物の構造設計を担当する。2002年6月エヌ・シー・エヌに移籍し、2020年6月取締役執行役員特建事業部長に就任。年間400棟以上の大規模木造の相談実績を持つ。2020年2月木構造デザインの代表取締役に就任。