こんにちは。中大規模木造に特化した構造設計事務所 木構造デザインの福田です。
4号特例が2025年4月から縮小する予定です。現行法では500㎡超で必要な許容応力度計算が、300㎡超に引き下げられます。これにより、構造計算が求められることが増えそうです。木造化のニーズが高まったことによって、大空間を有する建築物が増えているため、構造の安全性を考えると300㎡超への見直しは時代の流れなのかもしれません。
この4号特例の縮小によって、構造への関心が高まっています。「許容応力度計算を内製化したほうがいいのかな」と考える方も増えているのではないでしょうか?
今回、そのような方のために構造計算を内製化する際の注意点、また、外部に委託する際の構造設計事務所の選び方を詳しく解説します。
短納期・高難度の案件にも対応
現行法で4号建築物に区分される建物は、2号建築物(平屋の延床面積200㎡超500㎡以下、2階建ての延床面積500㎡以下)、または、3号建築物(平屋の延床面積200㎡以下)に振り分けられます。
さらに、300㎡超の建築物は構造計算が義務化されます。
4号特例縮小 2025年の法改正に向け建築士が準備することとは?
4号特例縮小に関する法案が可決されました。日程はまだ確定していませんが、施行は2025年度中を目標としています。「2年後だから、まだまだ時間がある」とお考えの方も多いのではないでしょうか?しかし、今から準備をしておかないと、あとあと問題になることもありますので、懸念される課題を解説いたします。続きを読む
今まで500㎡以下であれば必要なかった許容応力度計算が、2025年以降は300㎡超で必要になります。2021年の建築着工統計を見ると、300㎡超の非住宅木造は年間10,442棟。非住宅木造全体の約半分になります。300㎡超、700㎡以下が最もボリュームが大きく9,279棟です。
しかし、なぜか300㎡超500㎡以下のデータがわからないため、2025年以降、どのくらい構造計算が増えるか、見えにくいです。ただ、500㎡以下に抑えて計画するケースが比較的多いことを考えると、許容応力度計算が必要な棟数が飛躍的に増える可能性があります。
一般的な2階建て木造住宅には構造計算書は求められない見通しですが、新2号建築物には、確認申請書・図面+構造関係規定等の図面+省エネ関連の図面が必要になります。複合的な要因で、一時的に、構造設計事務所の奪い合いになるかもしれません。
構造計算の内製化を真剣に考える方が多いのは、ここに理由があります。
理想は許容応力度計算の内製化です。しかし、構造計算を内製化する際に問題になるのがコストです。技術力の高い構造設計者を採用する、もしくは、社内で育成するとなると膨大なコストがかかります。わかりやすいように、メリットとデメリットを並べてみると、
内製化のメリット
内製化のデメリット
などがあります。
構造設計のスキルを持った設計者は少なく、採用はかなり困難と言われています。また、育成となると膨大な労力と時間がかかり、計算ソフトなどの費用負担もしなければなりません。内製化を実現するためのハードルはかなり高いというのが現実です。ランニングだけでも年間1000万円近い固定費がかかると言う人もいます。そのため、外部との連携を選ぶ人が大多数です。
外部の構造設計事務所と連携する場合、注意しなければいけない点があります。
特に重要なのが、以下の3点です。
構造設計事務所は、個人事務所、もしくは、小規模な事務所が大多数で、顔が見える親密なお付き合いが多いです。そのためか、なかなか見つからず、紹介で探したという方も多いのではないでしょうか。ただ、小規模な事務所の場合、繁忙期には、対応できずに断られるということもあります。
一方、数は少ないのですが、全国対応の組織系の構造設計事務所もあります。そのような事務所は、技術者が多数在籍しているので、ある程度、急ぎの案件や難案件にも対応してもらえます。ただ、オンラインでの打ち合わせが多くなるなど、効率的に進められることを好まれる方には適しています。社内体制が整っている事務所であれば、一定の品質や期日に合わせる納期なども期待できます。
4号特例縮小に伴い、構造計算の頻度が増えることを考えると、ある程度数がこなせる構造事務所のほうが安心できるかもしれません。
■組織系の構造設計事務所は割高?
個人事務所と組織系の構造事務所を比較すると、組織系の構造設計事務所が若干割高になることが多いです。ただ、構造設計費用は、安全のための費用です。例えば、平米500円違ったとしても、300㎡の案件で15万円ほどしか違いません。繁忙期でもスムーズに仕事を受けてもらえる、人数がいる分、いろいろな知見を有しているなど、ただ単に、平米単価を比較するのではなく、トータルのコストで比べたほうが良いでしょう。
構造計算は、計算書をつくって終わりではありません。審査機関との質疑応答にも応えなければなりません。建物によっても、審査機関によっても、質疑が変わってくることがあります。その質疑に対応する作業や時間は、構造設計者の知識と経験で大きく変わってきます。
外部の構造設計事務所と連携するということは、日ごろから相談できる構造設計事務所を持つということです。設計の幅を広げるということも考慮して、事務所選びをすることが重要です。
構造設計事務所にも、得意、不得意があります。大きな事務所でも、木造の経験がほとんどないという会社もあります。また、在来軸組工法は、得意だが、ツーバイフォーはわからない。金物工法は不得手ということもあります。特に、非住宅木造は、まだ歴史が浅く、対応できる構造設計事務所は少ないのが現実です。
非住宅木造が、今後増えることを考えると、対応できる事務所も将来的には多くなっていくことが予想されますが、構造設計を依頼する際は、非住宅木造の経験があるかを確かめることが重要です。また、非住宅木造だけは、別枠で、専門特化した事務所に依頼するという会社もありますので、複数社との連携も視野に入れておきましょう。
非住宅木造の構造事務所選びで、もう一つ注意しなければいけないのが、プレカット加工、そして、木材の調達に詳しい構造事務所かということです。非住宅木造は、一般流通材を使わないケースや、特殊な加工が必要になるケースがあります。
構造設計はしたが加工ができない、特殊材が多く、木材費が高くなってしまったなどの問題が発生することがあります。構造設計だけではなく、プレカット加工、材料の調達にも精通している構造事務所か確かめるようにしましょう。
中大規模木造に取り組むべき理由とその取り組み方 この資料では、下記の内容を紹介しています。
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4号特例縮小によって、構造設計の外部化をお考えの方も多いかと思います。ぜひ、上記の基準で構造設計事務所選びをしていただければと思います。
弊社も全国を対応していますので、お近くに非住宅木造を得意とする構造設計事務所がない場合は、お気軽にご相談ください。コラムを読んだと言っていただければ、専門のスタッフが丁寧に対応いたします。
福田 浩史
1999年三重大学大学院工学研究科・建築学専攻・修士課程修了、同年4月に熊谷組入社、構造設計部に配属。主に鉄筋コンクリート造や鉄骨造の高層マンション、店舗設計など大型建築物の構造設計を担当する。2002年6月エヌ・シー・エヌに移籍し、2020年6月取締役執行役員特建事業部長に就任。年間400棟以上の大規模木造の相談実績を持つ。2020年2月木構造デザインの代表取締役に就任。