こんにちは。中大規模木造に特化した構造設計事務所 木構造デザインの福田です。
今回は、木造の倉庫をテーマに構造の考え方を紹介します。
なぜ、木造倉庫かと言うと、最近、お問い合わせが非常に増えているからです。
ただ、大空間を計画する場合、木造独特の課題があるため、悩むことが多いのも事実です。
その課題にどう対処するのかをまとめましたので、ぜひ、ご一読ください。
国土交通省が発表している、建築着工統計調査をみると、2021年に建築された倉庫の実績は13,824棟。
ただ、構造別に見ると、鉄骨造が10,433棟。
それに対して、木造は2,533棟と全体の2割程度です。
1棟当たりの平米数を見ると、全体の平均が951.76㎡なのに対し、木造は100㎡と住宅程度のサイズであることがわかります。
なぜ、これほどの平米数の差が生まれるのか?
構造的な視点からお話をしていきたいと思います。
中大規模木造に取り組むべき理由とその取り組み方 この資料では、下記の内容を紹介しています。
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以前に比べ、木造でも、ある程度の規模の倉庫が建築可能なことが認知されてきました。
そして、SDGsへの対応など、環境負荷低減のために木造にしたいというニーズが事業主サイドで高まっています。
建てる側も、木造による差別化によって受注に繋げたいという思惑もあります。
それらがうまく合致して増加傾向にあると思われます。
しかし一方で、倉庫の木造化にはいくつかの課題があります。
わかりやすいように、今回は実際の案件をもとに解説をします。
ご相談をいただいた案件は、300㎡弱、約100坪の木造倉庫です。
普段は木造に不慣れな方からの問い合わせが多いのですが、今回は非住宅木造の経験を持つ方からの相談でした。
ただ、倉庫のような大空間を手掛けたことがなく、構造のサポートをしてほしいという依頼でした。
平面形状は10m×27m。
4mの開口を2ヶ所計画しています。
開口側の立面は下記のようなイメージです。
天井高を高く取りたいという要望があり、階高が7.2mになり、シャッターについても4mを確保したいということでした。
非住宅木造に精通した方だったので、10mのスパンを1スパンで実現するのは、難しいという感覚をお持ちで、計画自体がコストにシビアなこともあり、流通材で対応できるスパンに柱を設置しました。
非住宅木造の基準は、木造住宅が基準になります。
一般的な木造住宅の階高は3mです。
そのため、7.2mは非常に高い階高になります。
そして、倉庫の場合、住宅と違い、外周部にしか基礎がなく、内部は立ち上がりを設けないことが多くあります。
このような課題を解決していく必要があります。
木造の倉庫を計画する時のポイントをまとめました。詳しくはこちら
階高が高いと、当然、柱が長くなります。
木造は基本的に筋違や面材などの耐力壁で地震や風に抵抗しています。
プロポーションが細長くなるということは、構造の立場からすると大きな課題になります。
耐力壁は高さと長さの比で規定されています。
このH(高さ)割るB(壁の長さ)というのが、面材壁の場合は5以下になるようにしなければいけません。
筋違の場合は3.5以下になります。
細長い壁にバッテンの筋違が入っても、ほとんど効かないだろうというのは、感覚的にお持ちいただけると思います。
当然、構造計算上も効きが悪くなります。
仮に、階高5mの場合、面材を使えば5を上限とするので壁の幅を1m以上確保しないといけません。
筋違の場合は、3.5が上限なので1.43m以上の幅を取ることになります。
少し専門的な話になりますが、せん断変形と、曲げ変形という規定があります。
壁倍率は、せん断変形という力に対しての強度しかみません。
せん断変形というのは、力がかかって横に倒れようとしたときに、壁が平行四辺形に傾くようなイメージです。
例えば、ずんぐりむっくりの壁を横から押したときに、なんとなく、変形するなというイメージです。
一方で階高が高くなればなるほど、曲げ変形という変形になります。
これは、部材が湾曲するような変形です。
平行四辺形の形を崩して曲がりながらしなって回転していくという変形に変わっていきます。
このような状態になると、先ほどの壁倍率を取ることが困難になります。
階高の高い木造を計画する場合は、このような専門的な、変形の仕方、壁のプロポーション、壁の仕様を押さえて強度を確認していきます。
壁の配置と壁線間隔は、まず外周面でどれぐらいの壁が確保できるのかをみていきます。
外壁面で確保できる耐力壁が決まってくると、その後、内部にどれくらいの壁を配置しなければならないのか、水平構面、屋根の強度が足りているかという流れで検討していきます。
今回は10m×27mですが、シャッターの部分を除けば耐力壁は確保できています。
水平構面については木造の場合、火打ちを入れることが多いのですが、強度的には、火打ち<鋼製ブレース<24mm合板、28mm合板という順番で強くなっていきます。
耐力壁線を大きく取るには、屋根の構面で強度の強いものを使います。
次に、柱の設置と梁の長さです。
今回は、中央に柱が入ることで、梁の長さも経済スパンで対応できます。
柱については、細すぎて支えきれないということが起こらないように細長比でチェックしていきます。
細長比は柱の断面と長さに対する規定になります。
割り箸をイメージしていただくと、分かりやすいと思います。
箸の長さが長くなり、断面が小さくなると、圧縮する力に対して弱くなり、折れてしまいます。
これを構造の用語で座屈と言います。
座屈しないように、柱の長さ、断面をチェックします。
また、方向によって大きさが異なる場合も注意が必要です。
例えば、図のように、棟を受ける柱が1本、屋根のてっぺんまで繋がっているとします。
横方向は桁梁で、その柱を押さえていますが、奥行方向、強軸方向は、棟まで1本の柱になります。
仮に上から大きな力で押さえた時に、横方向は問題ないのですが、奥行方向に膨らんでしまう可能性があります。
立面図で階高だけ見ていくと、桁の部分に梁が入っているから大丈夫だなと思ってしまうのですが、棟までの柱がXとY方向に拘束する部材があるかどうかもチェックする必要があります。
細長比は、計画の段階ではチェックしなくても良いのですが、しっかりと構造の専門家に相談しながら規定を満たしているか見る必要があります。
細長比も数字上は150を超えてはいけないという規定があります。
仮に、105×105の柱ですと、4.55mまでは150規定になります。
ただ、支えられる圧縮強度というのはフルの100に対して1割ぐらい低下してしまいます。
細長比と低減率を押さえながら、満足するようにしてください。
柱の次は壁量です。
壁量については、小規模の建築物であれば、壁量計算で安全性を確認することも可能です。
今回、仮に壁量計算の考え方に基づいて壁量を算出してみます。
平屋の木造の建築物だと、屋根の単位面積(1㎡)に対して15センチの壁量で計算します。
屋根の面積10m×27mに0.15mという数字をかけると、40.5m、約41mの壁の量を確保しなさいといけないということになります。
壁倍率、2.5倍の構造用面材を使った場合は41mを2.5で割った16.4m、約17mの壁をX方向とY方向に計画すると大よそ成り立ちます。
風に対して振られる力に対しては、耐力壁と屋根の構面を固める必要があります。
風に対して、どれぐらいの壁量が必要なのかは、建築基準法で規定されています。
先程の地震に対しては16.4mでした。風を見ると、15.8mです。
この案件に関しては地震力の方が支配的であることがわかります。
このように壁の量を見ていきます。
もし、水平構面が持たない場合は、内部に控え壁を設けることで変形を抑制します。
木造倉庫の場合、基礎計画も重要です。
ベタ基礎にするか、布基礎にするかは、はじめの段階で決めておかないと、あとで、施工コストやRC部分のボリュームに影響が出てきます。
一般的に、私たちの感覚ですと、耐圧板を180mmシングル配筋で考えると、大体1つの梁で囲めるサイズが3.64m×3.64m程度が現実的です。
これを超えるサイズの耐圧板を設けようとすると、250mmや300mmという住宅では使わないような鉄筋になり、現実的ではありません。
住宅の場合は、耐圧板150mm程度でベタ基礎にするか、T字の布基礎、壁の下等に布基礎、偏心布基礎で対応するというのが一般的です。
倉庫の場合、ベタ基礎で地中梁を設けながら、というのも可能ですが、コストに影響するので、外周部、耐力壁の入っているラインだけ布基礎で、あとは土間コンで処理するというのが圧倒的に多いです。
内側に壁が必要なところは、半島基礎にすることも多いです。
しかし、その際は構造的に注意が必要です。
住宅の場合、部材の幅が105mm、120mmが一般的です。
しかし、非住宅は120角では断面のサイズが足りず、長方形の柱を採用することがあります。
柱のサイズや柱形が中に出てくるため、その部分を受ける基礎の出っ張りを想定しておく必要があります。
内部に耐力壁が、例えば1mあるとすると、半島型の基礎を設けることになります。
ただ、受け材の部分だけ下に基礎を設けておけば良い訳ではありません。
倉庫の特性上、立ち上がりを内部に設けられない時は、地中梁で、地面の中で構造の力に対応する必要があります。
当然、シャッターがある箇所は立ち上がりをカットすることになり、地中梁でカバーする必要があります。
4号建築物だとしても、住宅の延長で基礎を考えてしまうと、力を伝えきれていないということが起こります。
耐力壁が入る場合は、内部でも地中梁を設置していきます。
耐力壁を効かすためには、基礎梁が繋がっていて、受ける基礎が沈まないというのが大前提です。
住宅は、基礎の梁が切れていても許されます。
しかし、荷重の大きな非住宅になると、構造的に成立しているかがポイントになります。
切れてしまうと壁が基礎を押し下げたときに、沈んでしまいます。
沈ませないように、しっかりと地中梁を隣の梁まで連続して設けていくことが重要になります。
こういう計画になっているかどうかということを、しっかりと構造の専門家を含めて計画をしていく必要があります。
もう一つ、布基礎で注意しなければならないことがあります。
住宅の場合、布基礎の幅は通常450mm程度ですが、非住宅になると、布基礎の幅が800mm、1mになることもあります。
その結果、敷地からはみ出てしまうということもあります。
そうならないために、偏心型の基礎を設けることがあります。
しかし、偏心タイプの布基礎の場合、どちらかに力がかかり過ぎてしまい、バランスを崩してしまうことがあります。
基礎が持つか、設置圧が足りるかなどをチェックする必要があります。
木造の倉庫というと、スパンをどう飛ばすかということに目がいきがちですが、それ以外にも注意しなければいけないことが多くあります。
階高や基礎なども含め、構造の専門家を交えてチェックしていきましょう。
構造設計事務所に相談するのは、気が引ける。
そのようにお考えの方も多いことでしょう。
そのような時は、お気軽に木構造デザインにご相談ください。
福田 浩史
1999年三重大学大学院工学研究科・建築学専攻・修士課程修了、同年4月に熊谷組入社、構造設計部に配属。主に鉄筋コンクリート造や鉄骨造の高層マンション、店舗設計など大型建築物の構造設計を担当する。2002年6月エヌ・シー・エヌに移籍し、2020年6月取締役執行役員特建事業部長に就任。年間400棟以上の大規模木造の相談実績を持つ。2020年2月木構造デザインの代表取締役に就任。