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木構造研究室

ケーススタディで学ぶ 大空間施設 木構造の考え方 【紙面セミナー 前編】

こんにちは。中大規模木造に特化した構造設計事務所木構造デザインの福田です。

スパンが飛んだ大空間の木構造をどう成立させるのか?

先日、意匠設計者様、建設業者様向けのセミナーで対処法を解説しました。多くの参加者の方から参考になったという声をいただきましたので、今回、紙上セミナーという形式で紹介したいと思います。

構造計画の流れを詳しく紹介したのですが、このフローを知ることで、大きな失敗を回避できるのではないかと考えています。ぜひ、参考にしてください。


目次
木造で20m×45mの工場は可能ですか?
STEP1 課題の洗い出し
木造の規格サイズ
木造の規格から外れた場合は?
STEP2 住宅から拡張した仕様の代替案を検討


木造で20m×45mの工場は可能ですか?

弊社には、日々、様々な相談が寄せられています。
簡単なものから複雑なものまで様々です。

何かしら問題を抱えているので、すぐに答えを求められるのですが、

構造、特に非住宅の構造は即答できる解答は少ないです。

では、解決策をどのように導き出すのか弊社で行うフローを紹介します。

考え方だけでは、わかりにくいので、具体的な事例で解説をしたいと思います。

事例の案件は、「20m×45mの工場を計画中で、木造でできますか?」という相談からはじまりました。

お分かりと思いますが、これだけの情報では回答ができず、図面を送ってもらい、細部のヒアリングをしました。

このような相談の場合、私たちは次のフローで進めていきます。

STEP1 課題の洗い出し

STEP2 住宅から拡張した仕様の代替案を検討

STEP3 構造計画

という流れです。


中大規模木造に取り組むべき理由とその取り組み方

この資料では、下記の内容を紹介しています。

  • どのように非住宅木造に参入するか?
  • なぜ、中大規模木造が注目されているのか?
  • なぜ、500㎡を超えると木造化率が低下するのか?
  • 中大規模木造で失敗しない5つのポイントとは?

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STEP1 課題の洗い出し

はじめのステップとして、構造上の課題を洗い出します。

特に、木造に不慣れな方は、このSTEP1の洗い出しの作業を入念にすることをお薦めします。

では、どのように課題を洗い出すのか? というと・・・

課題の洗い出しは、言葉を替えると木造の規格サイズから外れるものが何か?を抽出する作業です。

鉄骨造は、どちらかというと多品種少量生産の業界で、顧客のニーズに合せて生産する体制が整っています。

顧客からのイレギュラーな要求にも、ある程度柔軟に対応することができます。

一方、木造は大量生産のサプライチェーンが出来上がっている業界です。

規格内のものであれば、調達や加工、施工が容易にできますが、規格から外れてしまうと一気に難易度が増します。

この課題(木造の規格から外れるもの)の洗い出し作業をすることで、調達、加工、コストにまつわる課題を明確にすることできます。

木造の規格サイズ

では、木造の規格サイズとはどのようなものなのでしょう?

木造の一般的な基準規格は、住宅の壁量計算仕様規定になります。

細かく見ていくと、

  • 2階建て 200㎡(60坪)ほどの住宅としての在来工法
  • 10m×10m×2層

  →10m/2~3=5m~3mスパン

  • 柱を105×105、または、120×120

  →柱の高さ3.0m
  (細長比 99(105)/87(120)
     ➡低減0.31/0.43)
  →柱の高さ3.5m
  (細長比 115(105)/101(120)
    ➡低減 0.23/0.29)

  • 積雪 30cm
  • 基準風速 34m/s

というものが基準になります。

これらの規格から外れてしまうと、流通材から特殊材になったり、通常プレカットから特殊加工になったり、一般金物から特殊金物になったりと、通常とは異なる対応を迫られます。

木造の規格から外れた場合は

非住宅の場合、この基準から外れることが多く、例えば、

  • 一般に流通している6m材を超えるスパンになり、応力とたわみの問題が発生することがある
  • 階高が3mから4~5mになることも多く、座屈や外周の柱が受ける風の問題が発生することがある
  • 一般の仕口・納まりから金物・特殊納まりになることがある。
  • 用途が多用途になるため、積載荷重を考慮した梁サイズと壁量を想定する必要がある
  • 積雪荷重と緩勾配の対応が必要になる
  • トラスの場合、接合方法と水平構面・変形が生むトラブルへの対応を考慮する必要がある

このように規格から外れることによって生じる課題があり、それを洗い出します。

これらが終わった後、STEP2の
「住宅から拡張した仕様で代替えができるか」を検討します。

STEP2 住宅から拡張した仕様の代替案を検討

非住宅木造でスパンが飛ぶ場合、スパンが飛んでいるという1点だけをクリアすれば良いのかというとそうではなく、他の課題と複雑に絡み合っていることが多くあります。

まずは、課題をすべ洗い出し、俯瞰して眺めることで、大枠で、できることと、できないことの選別ができ、基本方針を決めることができます。

そして、STEP2の「住宅から拡張した仕様の代替案」を検討するようにしています。

住宅から拡張した仕様の代替案として有名なものが、中大規模木造プレカット技術協会(PWA)の仕様書です。

流通材とプレカット加工で対応できるので優先的に検討を行っていきます。

そして、このSTEP2で代替えできないものを、特殊対応として検討していきます。
いきなり特殊対応で考えてしまうと、コスト的に割高になってしまうからです。

初期段階から、流通材、もしくは、住宅から拡張した仕様を考慮した設計をすれば、木造の良さを最大限に引き出すことができます。

木造は、初期段階から構造を巻き込んで設計をすることが重要です。

これから、非住宅木造に取り組んでいきたい、鉄骨造、RC造が中心で木造は不慣れ、構造的な問題を抱えていて、相談する人がいない、ということでしたら、どうぞ、お気軽に木構造デザインへご相談ください。

弊社は、木造の非住宅に特化した構造設計事務所なので、お役に立てることがあると思います。

この後、構造計画に入っていくのですが、今回、長く書き過ぎてしまいましたので、次回、詳しく解説します。

お楽しみに。

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福田 浩史

  • 構造設計一級建築士/コンクリート技士
  • 株式会社木構造デザイン代表取締役社長

1999年三重大学大学院工学研究科・建築学専攻・修士課程修了、同年4月に熊谷組入社、構造設計部に配属。主に鉄筋コンクリート造や鉄骨造の高層マンション、店舗設計など大型建築物の構造設計を担当する。2002年6月エヌ・シー・エヌに移籍し、2020年6月取締役執行役員特建事業部長に就任。年間400棟以上の大規模木造の相談実績を持つ。2020年2月木構造デザインの代表取締役に就任。