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木構造研究室

ケーススタディで学ぶ 大空間施設 木構造の考え方【紙面セミナー 中編】

こんにちは。中大規模木造に特化した構造設計事務所木構造デザインの福田です。

スパンの飛んだ大空間をどう成立させるのか?

ケーススタディ形式で紹介する紙面セミナーの2回目です。

5月に行った意匠設計者様、建設業者様向けのセミナーで計画のフローを解説しました。

下記の案件をもとに、ケースタディ形式で解説したのですが、多くの方から参考になったという声をいただきました。

このフローを知ることで提案で大きな失敗を回避できるのではないかと考えています。

今回、そのセミナーのダイジェスト2回目です。


目次
構造計画をフォーマット化
仮定断面は納まりも一緒に検討
地震と風で壁の必要量を比較

構造計画をフォーマット化

20m×45mの工場を木造でどのように構造計画したら良いのかを実例で解説します。

大空間の木造施設の場合、いきなり構造計算に入るのではなく、「課題の洗い出し」をして、そして、「住宅から拡張した仕様の代替案の検討」をまず行います。

「課題の洗い出し」、「住宅から拡張した仕様の代替案の検討」は、【前編】をご参照ください

ケーススタディで学ぶ 大空間施設 木構造の考え方【前編】
大規模木造の構造計画のフローを知ることで、大きな失敗を回避できます。続きを読む

構造計画は、建物の使用目的に適した構造体を計画することです。

非住宅木造は、馴染みのない方も多く、なかなか自信を持って計画を進められないということもあると思います。

ぜひ、この機会に流れをつかんでください。

検討する主要な項目は以下になります。

  • 建設地と形態、建物に加わる荷重を想定する荷重設定
  • 建物の各部に加わる力、部材に加わる力を想定する応力概算
  • 部材・接合部に加わる力が耐える力を上回るかを確認する断面概算
  • 地震や風、雪や劣化などの建物損傷をイメージする変形や修繕のイメージ

などです。

項目が多く、それぞれが複雑に絡み合ってくるため、ある程度フォーマット化して、漏れがないように計画することをお薦めします。

そして、検討をする際に重要になることが、構造の納まりも考慮するということです。

非住宅木造の場合、非効率的な材料の利用や特殊な納まりは、コストアップの原因になります。

どこまでコストを優先するのか?
そして、どの部分のコストアップは容認できるのか?
また、どこまで意匠提案で解消できるのか?

などを意匠設計者の方と情報を共有しながら構造に落とし込んでいきます。


中大規模木造に取り組むべき理由とその取り組み方

この資料では、下記の内容を紹介しています。

  • どのように非住宅木造に参入するか?
  • なぜ、中大規模木造が注目されているのか?
  • なぜ、500㎡を超えると木造化率が低下するのか?
  • 中大規模木造で失敗しない5つのポイントとは?

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仮定断面は納まりも一緒に検討

構造計画のフローは以下の表のようなフローになります。


1.柱の配置、壁の配置

2.梁サイズ 通直材か組立材か

3.水平構面の想定


この順番で進めていき、問題が発生したら前工程へ戻り、再度検討します。

これを繰り返すことで、最適な木構造にしていきます。

では、事例を使い解説していきます。

1. 柱の配置、壁の配置

柱の配置、壁の配置は、


①耐力壁の配置計画

②階高を考慮した耐力壁の構成

③壁の配置と壁線間隔

④柱の配置と梁の長さ

⑤柱の細長比

⑥地震と風で壁の必要量を算出


を検討していきます。一つ一つ見ていきます。


①耐力壁の配置計画

まず、耐力壁を面材にするか、筋違にするかを検討します。

非住宅の場合、耐力上の問題で馴染みのない耐力壁を採用する場合があります。

その際は注意が必要です。

面材の場合、大壁か真壁で納まりが違い、また、両面材にすると隠ぺい工事になり、設備の工程も考える必要があります。

初歩的なことですが注意が必要です。
筋違の場合も②の注意が必要です。


②階高を考慮した耐力壁の構成

非住宅は階高が高くなることが多くあります。

もし、階高が5mを超えてくると、流通材の筋違では対応できないことがあります。

規格外になる可能性も考慮する必要があります。


③壁の配置と壁線間隔

壁がどこに設置できるかを想定します。

今回の案件の場合、中央の縦ラインは壁線にならないため、壁線間隔は、10.92m×2で約22mになります。

横方向の壁線間隔は5.46m×8で約44mです。

壁線間の力の伝達を行うのが、水平構面で、構面耐力がない場合、距離を狭めるしかありません。


④柱の配置と梁の長さ

続いて、柱の配置と梁の長さを想定します。

柱の配置は、床・屋根重量を下に伝える役割です。
経済スパン(流通材6m)で配置するか、接合部の設計をするかを検討していきます。


⑤柱の細長比

外周柱の有効細長比が大きいと耐力が低減します。

特に、注意が必要になるのが、扁平柱です。(強軸と弱軸のある断面)。
外周に設置する柱が軒までつながり桁面に支えがない場合は、外部からの風を受ける断面と耐力壁の軸力を受ける断面が異なります。

柱の座屈長さが異なると、各方向の断面耐力が異なるため、壁の納まりに影響する部分となります。

今回のケースは、細長比≦150が仕様規定になり、4.55mの105角の柱で150以下の細長比になるため、
圧縮の強度は13%に低下します。

仮に3mまで短くした場合、圧縮が50%になります。
ただ、周りに柱がなければ、風圧力による曲げの力との複合で検討する必要があります。


⑥地震と風で壁の必要量を算出する

どのくらいの壁が必要か地震と風の両方で見ていきます。

まずは、地震です。
地震は屋根面積に基準法で定められている最低値の係数15(cm/㎡)で概算を算出します。

0.15m×950=142.5mがX/Y方向に最低必要になります。

壁倍率が2.5倍壁を使うと、142.5/2.5=57mになります。
X方向に、5m×4=20mあるが37m足りなくなります。

3mの壁を14ヵ所設置することを検討したのですが、そうすると、計画が壊れてしまうため、
壁を寄せて対応する案で計画をしました。

地震と風で壁の必要量を比較

続いて、風で壁の必要量を計算します。

風は見付面積で概算を計算します。
今回のケースでは、

屋根が、0.3×10.92m×(43.2+2)=148㎡
壁面が、3.65(階高-1.35)×43.2=158㎡

になり、合計306㎡でした。

306㎡×0.5=153mなので、153mの壁がX方向に最低必要になります。

地震が143mだったので、風のほうが深刻なことがわかります。

最終的に、柱の配置・壁の配置はこの後、壁倍率によって、配置位置と量、バランスを計画することになります。


1. 耐力壁の配置計画はダブル壁に

2. 階高を考慮して耐力壁を面材に

3. 壁の配置と壁線間隔を考慮してダブル壁で均等配置に

4. 柱の設置と梁の長さは、梁の検討に継続

5. 細長比は外周部を平角に

6. 地震と風で壁の必要量を算出しダブル壁に


という結果になりました。

そして、次のステップの梁の計画と接合部に移っていきます。

梁の計画と接合部のステップは、第3回で詳しく解説します。

お楽しみに。

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福田 浩史

  • 構造設計一級建築士/コンクリート技士
  • 株式会社木構造デザイン代表取締役社長

1999年三重大学大学院工学研究科・建築学専攻・修士課程修了、同年4月に熊谷組入社、構造設計部に配属。主に鉄筋コンクリート造や鉄骨造の高層マンション、店舗設計など大型建築物の構造設計を担当する。2002年6月エヌ・シー・エヌに移籍し、2020年6月取締役執行役員特建事業部長に就任。年間400棟以上の大規模木造の相談実績を持つ。2020年2月木構造デザインの代表取締役に就任。