こんにちは。中大規模木造に特化した構造設計事務所 木構造デザインの福田です。
事務所やテナントを木造で提案したいという方や、事例を参考に木造化を試みる意匠設計者からの相談が増えています。
最近、特に多くなっていると思うのが、鉄骨造4階建て・5階建ての計画をそのまま木造に置き換えたいという相談です。
ただ、木造3階建ては普通に設計して建設することができますが、木造4階建て・5階建てになると、一気に難しくなります。なぜなのでしょう?
木造4階建ては耐火構造を要求されます。
石こうボード二重貼りの壁や床など耐火仕様になるため重くなります。
さらに、非住宅用途の積載荷重や衝撃・振動対策の荷重、建物の総重量増による地震荷重も増えます。
また、4階建てになるので、見付面積も増え、最下層の風圧荷重も増えることになります。
そのため、住宅で使用する5倍壁や7倍壁では、要求される荷重に抵抗する耐力壁が足りず、意匠計画を壊さずに構造設計することが難しくなります。
プランにもよりますが、3階建て準耐火の最下層と4階建て耐火の最下層では、壁量が2倍くらい違ってきます。
店舗としての開放感や、集合住宅としての南面開口、事務所としての自由な動線を確保するためには、高耐力の耐力壁が必要になります。
4階建てを実現した事例を見ると、木造住宅では見かけない要素があるのはこのためです。
例えば、最下層が壁式RCの混構造になっていたり、木造ラーメン架構であったり、大断面を使用した木質ブレース構造だったり、7倍壁を2重に合わせた壁になっていたりします。
今、壁倍率で表すと15倍の壁や20倍の高耐力壁も開発されています。
意匠計画を成立させるために、そのような耐力壁を採用するケースもあります。
ただし、これらは壁の仕様を守れば良いというものではありません。
5倍から7倍といった木造耐力壁は破壊実験のデータや試設計から、周辺部材への影響も考慮した仕様になっています。
つまり、壁を構成する柱や梁の損傷や変形も許容される範囲での取り扱いになっているということです。
いわゆるグレー本の「7倍壁まで」という適用範囲は、壁以外の部材との関係も含めての制限になります。
15倍の高耐力壁を設置すると、壁を構成する柱に大きな圧縮や引張力が作用し、壁の曲げ変形から、周辺の梁に大きな応力を伝えることが知られています。
木造より部材数が少なく接合部に大きな力が加わる鉄骨造は、接合部や部材端部に算出した応力を割り増しして、安全側で設計する体系が出来上がっています。
しかし、木構造は安全設計の方策は平易な方法で整っておらず、解析ソフトや設計者の力量で駆使しているのが現状です。
他にも、最下階にかかる力は、基礎を通して地盤に逃がしているので、4階建ての基礎設計は非常に複雑です。
敷地によっては、鉄骨造並みの杭基礎の設計が必要な場合もあります。
また、木造住宅で使う既製品の梁受け金物やホールダウン金物も耐力を超えてしまって使用できないことがあります。
実験によって検証されたコンパクトな金物に比べ、製作金物は、どうしてもゴツくなってしまいます。
このように、木造4階建てには、まだまだ多くの課題が残っています。
そのため、簡単には進んでいかないのが実情です。
木造4階建てを実現している事例の多くが、高耐力の耐力壁と接合金物を開発し、解析による設計で応力を精査して安全を検証したケースや、大断面の柱と梁のラーメン接合で耐力と施工品質を確保した特許技術を採用したゼネコンなどです。
そして、もう一つが、接合金物の耐力性能を十分検証して設計に組み込み、高耐力の壁や柱梁のラーメン接合を使って、応力解析から最適配分を行うSE構法のような金物構法商品です。
木造4階建てが、今の木造3階建てのように普及する日を心待ちにしていますが、現状の在来木造の技術では、4階建てにそのまま活用することが難しいのが実情です。
大地震が十分想定される今の建築業界では、しっかりした設計、生産管理、施工といった垂直統合できる技術で顧客への品質保証を行うことが求められています。
福田 浩史
1999年三重大学大学院工学研究科・建築学専攻・修士課程修了、同年4月に熊谷組入社、構造設計部に配属。主に鉄筋コンクリート造や鉄骨造の高層マンション、店舗設計など大型建築物の構造設計を担当する。2002年6月エヌ・シー・エヌに移籍し、2020年6月取締役執行役員特建事業部長に就任。年間400棟以上の大規模木造の相談実績を持つ。2020年2月木構造デザインの代表取締役に就任。