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木構造研究室

法改正に備えて構造計算のポイントを解説

こんにちは。中大規模木造に特化した構造設計事務所 木構造デザインの福田です。


2025年の法改正により、延床面積が300㎡超の建物に構造計算が必要になります。

数ページで済んでいた壁量計算書から、100~200ページ必要な構造計算書になるため、慣れていない方は戸惑うかもしれません。

今回、法改正に備えて構造計算のポイントを解説します。


目次
建物ごとにモデルを作って、重量を当てはめる
鉛直荷重と水平荷重
構造計算の流れ
なぜ、構造計算が必要なのか?
仕様規定の基準サイズ
まとめ

建物ごとにモデルを作って、重量を当てはめる

構造計算は、特記仕様書や標準図などで各部の仕様を選定し、木材の強度やサイズ・接合する金物の耐力を示していきます。

仕様書で標準化できない場合は、屋根、床、壁の荷重・用途による荷重を想定して、木造部分及び基礎の総重量を示して計算書を作っていきます。


荷重や設計条件、建物の形態を想定していくことをモデル化と言います。

地震や風が吹いた時にどのように揺れるのか、どのくらい揺れるのかを、建物ごとにモデルを作って、重量を当てはめていきます。

鉛直荷重と水平荷重

建物にかかる荷重は、縦方向に受ける鉛直荷重、横方向に受ける水平荷重の大きく2つがあります。

この2つの荷重に対して、部材と建物全体をチェックしていきます。


鉛直荷重については、建物そのものの重さである固定荷重と、床に載る物、人や家具などの積載荷重の2つに分かれます。積載荷重は、建物の用途によって重量が大きく変わります。どういう用途の建物なのか注意が必要です。

そして、もう一つ重要なのが積雪荷重です。雪の重さは、一般的な地域で、積雪量1cmにつき1㎡当たり20N以上(2㎏)で計算します。(多雪地域では、積雪量1cmにつき1㎡当たり30N以上(3㎏)になります)そのため、1mの積雪で1㎡あたり200㎏の荷重がかかる計算になります。雪の多い地域では注意が必要です。


水平荷重は、地震力と風圧力の2つがあります。地震力は、名前の通り、地震で揺れた時にかかる力です。力は建物の重さ、高さに比例するので、建物の総重量が大きければ大きいほど、高さが、高ければ高いほど大きくなります。

風圧力も、名前の通り、台風や突風などの強い風を受けた時にかかる力です。 こちらは建物が風を受ける面積に比例して大きくなります。

構造計算の流れ

構造計算は、下記の1から9の流れで、建物に生じる力(鉛直力・水平力)が、部材の持つ耐力を超えないことを確かめていきます。


  1. 建物の重さを調べる(建物自体の重量)
  2. 建物の床に乗せる物の重さを想定する(積載荷重)
  3. 雪が積もったときにかかる重さ(積雪荷重)や特に重いものの重さ(特殊荷重)
  4. 全部(建物+積載物+特殊荷重)の重さを合計する
  5. 建物にどのように重さ(下向きの力)が伝わるかを調べる。
  6. 伝わった重さに、材料が耐えられるかを調べる。そして、地震や台風が来た場合を想定して検証する。
  7. 地震時にかかる力を、建物の重さから換算する。
  8. 台風が来たときに、建物にかかる力を調べる。
  9. 地震や台風のときに建物にかかる力(横向きの力)に、材料が耐えられるかを調べる。


ここまでが、ルート1の許容応力度計算です。

数式だと専門的になってしまうので、言葉で書きましたが、このフローで検討していきます。

なぜ、構造計算が必要なのか?

下記の図をご覧ください。

「審査上、構造計算が必要」ということだけを考えると、上記の中央の線が境界線になります。現行法では、延床面積500㎡超、最高高さが13m超 軒高9m超、3階以上が構造計算の境界線です。

その境界線の左側が、仕様規定で設計できる規模になります。標準化された設計手法を使い、最低限の安全性を仕様規定で確保しています。

ただ、仕様規定で設計できる規模で、仕様規定に沿った設計をしても、構造計算で確かめないと、安全性が担保できてないものもあります。

事例で解説します。

次の平屋の倉庫は規模から考えると、現行法の4号建築物に該当します。

この場合、構造計算をせずに、確認申請を通すことができます。

ただ、4号建築物の範囲内であっても、安全性の確保に不安を感じるはずです。

仕様規定の基準サイズ

仕様規定の基準サイズは、下記のような一般的な住宅を想定しています。


  • 2階建て 200㎡位の在来工法の住宅
  • 建物のサイズは10m×10mの総2階
  • スパンは3~5m 柱も105角、または、120角 柱の高さ3.5m
  • 積雪30cm・基準風速34m/s


仕様規定の基準サイズ内で、壁量計算をすれば、耐震性能を損ねることはないという想定で、組み立てられています。先ほどの倉庫に当てはめると、スパンや柱の高さが基準サイズから外れます。


非住宅の場合、スパンが6mから10mという案件も多く、階高も、4mや5mと高くなることがあります。木造建築も造形が多様化し、無理やり壁量計算で解決しようと思っても、なかなかうまくいきません。仕様規定の基準サイズから外れる場合は、構造計算を行いながら、その建物の評価を行っていくということが大切です。


最後に、先日、「増改築は2025年の法改正は関係ないですよね?」という問い合わせをいただきました。これは大きな間違いです。

建築士法上、建築物の安全性の確保を図るのは、原則として建築士になります。設計をする上で、建築士は、様々な書類を作り、お施主様と意思疎通し、設計と施工の段階で、性能が満足するよう見守り、お施主様に提供していくという義務があります。

建築士の義務という視点で考えると、「なぜ、構造計算が必要なのか?」という質問の答えは、「申請で添付が必要だから」ではなく、「建物の安全性をお客様に証明するため」ということになります。

まとめ

「構造計算は、できればやりたくない」という意見もありますが、私たちが考えることは、「建物の安全を第一に考える」ということです。

法改正で300㎡に縮小される大きな理由がここにあるように思います。

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福田 浩史

  • 構造設計一級建築士/コンクリート技士
  • 株式会社木構造デザイン代表取締役社長

1999年三重大学大学院工学研究科・建築学専攻・修士課程修了、同年4月に熊谷組入社、構造設計部に配属。主に鉄筋コンクリート造や鉄骨造の高層マンション、店舗設計など大型建築物の構造設計を担当する。2002年6月エヌ・シー・エヌに移籍し、2020年6月取締役執行役員特建事業部長に就任。年間400棟以上の大規模木造の相談実績を持つ。2020年2月木構造デザインの代表取締役に就任。