こんにちは。中大規模木造に特化した構造設計事務所 木構造デザインの福田です。
斜面地、崖地の案件相談を、最近、立て続けに受けました。
相談内容を確認していると、ほぼ同じような問題で躓いていました。
ポイントさえ押さえておけば回避できる問題でしたので、今回、斜面地、崖地で計画する際の構造上の注意点を解説したいと思います。
斜面地を有効活用した計画に携わることがあります。
特に、リゾートなどの宿泊施設や飲食店は、そのような敷地で計画することがあります。
最近のインバウンドブームもあってか、眺望を優先して進めていた意匠計画が、構造の段階になって躓くということがあります。
斜面地、崖等の場合、事業主の敷地だけではなく、隣地の土がどのように留まっているのか、どのように留めているのかも考慮しなければいけません。
そして、既存の擁壁も、そのまま活用できるのかも検討する必要があります。
最近の自然災害に伴う崖崩れや擁壁の崩壊で、条例が改正されていることもあります。
早い段階で、確認しておくことが重要です。
構造的に問題になってくるのが基礎計画です。
斜面地では、基本的に布基礎を採用し、底板の高さに合わせて、基礎梁で連結するのが一般的です。
ベタ基礎は、4辺を同一平面上で設定するため、段差位置ごとで底盤と基礎梁を構成させる必要が生じます。
さらに基礎梁は基礎全体として連結し、力が十分伝わる断面を設計することになります。
そのため、高低差のある敷地では、ベタ基礎を成立させることが難しくなります。
布基礎の場合も、各通りごとの力を地盤へ伝える役割と、地震時を含めた建物の応力を負担することになります。
底盤に回転が生じたり、通りごとの応力に大きな差が生じることがあるため、基礎梁で連結させます。
比較的大きな計画になると、建物も長くなります。
均等な建物荷重条件にはなりづらく、形態に応じた基礎設計が必要です。
特に斜面地となると、地盤耐力も複雑となる場合が多く、不同沈下などのトラブルが生じがちです。
非住宅の木造建築では、床面位置が立ち上り基礎の位置より低くなることもあります。
その場合、内部の動線計画から基礎梁は立ち上り寸法が見込めず、床下で確保することになります。
基礎梁は、建物全体として繋がらなければならないので、高低差のある敷地では基礎梁の高さを見込んで布基礎底盤の位置を検討することになる訳です。
そのため、初期段階から意匠設計者と構造設計者で擦り合わせをしておかないと、後々トラブルになることがありますので注意してください。
斜面地の場合、申請上、平均GLが求められます。
ただ、計画段階で平均GLがはっきりしていないことがあります。
軒の高さ、最高高さはGLからの距離になるため、平均GLが曖昧なまま計画を進めてしまうと、軒高が9mを超えてしまって、ルート2で対応しなければいけないということが起こりかねません。
平均GLの設定は意匠計画になるので、本来は初期段階で決まっていなければいけないのですが、後回しになっていることが多々あるので注意してください。
また、斜面地の場合、段差によって立面不整形になることがあります。
立面不整形に関しては以前詳しく解説したので、ぜひ、そちらをご参照ください。
(詳しくはコチラhttps://tsdesign.co.jp/article/71.html)
ただ、斜面地で段差があるフロアーが連なっているような建物の場合、エキスパンションで切らないケースがあります。
どのようなケースかと言うと、構造計画上のブロック分けで検討する場合です。
Aブロック、Bブロックの境界面は、境界耐力壁線で右と左に分け、1つの柱に対して、表と裏の壁で振り分けるという方法を採用することができます。
その場合、エキスパンションで切る必要はありません。
段差が生じている箇所で、ここでAブロックとBブロックに分かれますと宣言し、ブロック分けをします。
そうすることで、建物が一体であっても、別のものと見立て、検討することができるようになります。
右と左の耐力壁の利き方が、同じような耐力になるように各ブロックを計画します。
これが、グレー本にもある立面不整形を2つのブロックに分けて、それぞれを自立させるというシナリオです。
この場合、柱を2本立てて分離させなくても、1本で成立させることができます。
ただ、これはあくまで、小さなスペースを分離させる時にのみ有効な考え方です。
大きな空間で、どちらのブロックも壁が必要になると、1枚の壁を表裏で分けて、半分で自立させるというシナリオが通用しません。
両面を耐力壁として使う場合は、柱を2本立てて分離することになります。
斜面地での計画は、専門家に相談することで、トラブルになりそうな要因をある程度想定することができます。
問題を回避するためにも、初期段階から構造と連携することが重要です。
福田 浩史
1999年三重大学大学院工学研究科・建築学専攻・修士課程修了、同年4月に熊谷組入社、構造設計部に配属。主に鉄筋コンクリート造や鉄骨造の高層マンション、店舗設計など大型建築物の構造設計を担当する。2002年6月エヌ・シー・エヌに移籍し、2020年6月取締役執行役員特建事業部長に就任。年間400棟以上の大規模木造の相談実績を持つ。2020年2月木構造デザインの代表取締役に就任。