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木構造研究室

非住宅木造の基礎設計

こんにちは。中大規模木造に特化した構造設計事務所 木構造デザインの福田です。


非住宅木造に取り組む会社が増えています。

しかし、慣れていない方にとっては、戸惑うことが少なくないようです。

弊社への相談も構造に関する質問が多いのですが、基礎設計に関する質問も意外に多いです。

今回は、これから非住宅木造に取り組もうという方向けに、基礎をどのように設計するのかに関して解説します。


目次
上物の荷重が確定した後
図面は意思伝達の道具
確認申請図と施工図
後工程をスムーズに
基礎梁の形状
立上と地中梁
まとめ


上物の荷重が確定した後

住宅と非住宅で大きく異なるのが基礎。
一般的な木造住宅の基礎とは勝手が違うので、手間取ることも少なくありません。
問題を回避するためにも、図面をしっかり整えていく必要があります。


「基礎伏図を早くもらえませんか」という問い合わせをいただくのですが、上物の荷重が確定した後でないと基礎計算ができないので、最後になることが多いです。

図面は意思伝達の道具

図面は意思伝達の道具です。
例えば、意匠設計者は、平面図や立面図を使って、施主へ設計の意図を伝えます。
確認審査時には、計画が法適合しているか設計図書で確認します。
そして、施工図を使って現場へ施工に必要な情報を伝えていきます。
それぞれの工程毎に、意図が正確に伝わるように図面を作り込んでいきます。


ただ、詳細まで、すべてが決まっていて図面を作成できれば問題ないのですが、未確定な状態で進めていかなければならないのが現実。
そのような時、後で変更が利くように、図面に含みを持たせることがあります。
その含みを理解していないと、後々、トラブルになることがあります。

確認申請図と施工図

確認申請図と施工図では、伝達内容に微妙な違いが生じることがあります。
これは伝える相手と目的が異なるためです。


確認申請時の設計図書は、『計画が法適合しているか』を『審査機関』へ伝えるものになります。
例えば、「引っ張りが発生する箇所に、ホールダウン金物のM16を柱に付けます」や、「耐力壁がある通りに、M12の土台留めのアンカーを何本入れます」というような情報です。
その情報に誤りがないかを審査機関がチェックします。


一方、施工図は、例えば、「土台は、ここで継ぐので、こちらを上にして土台にM12で留めてください」というような『具体的な情報』を『施工者』に伝えるものになります。


確認申請時には、構造計算と整合性をとるために、「この通りにアンカーを何本入れます。
ホールダウン金物はこの柱に付けます。
納まりに関しては標準仕様書に記載しています。
標準仕様書には、土台に継ぎ手がある場合は、継ぎ手位置から70ふかして留めてください」というような含みを持たせた情報が書かれています。


そして、この設計図書の情報を基に、「ホールダウン金物はこの場所に設置してください」という具体的な施工図に落とし込んでいきます。

後工程をスムーズに

なぜ、そのような含みを持たせているのかと言うと、確認申請の段階でギチギチに決めてしまうと、変更が利かなくなってしまうからです。
後工程をスムーズに進めるために、構造計算上の必要量と必要箇所、そして、標準仕様書というルールにとどめて、現場での選択肢に幅を持たせています。


特に、施工会社を相見積もりで選ぶ場合は、施工会社がどこになるのか、そして、どこのプレカット工場で加工するのか等が、確認申請時点では決まっていないことがあります。
土台の割付は、加工するプレカット工場に依存することが多く、もし、割付が変われば、継ぎ手の位置も変わってきます。


そのため、確認申請の段階で、構造事務所が決めることは、構造的な条件から必要なものにとどめ、構造に関わらない細かい納まりに関しては、施工図に任せています。


確認申請の後に、最も早く着工するのが基礎です。
そのため、短期間で施工図を作成しなければなりません。
図面に含みを持たせた分、融通は利きますが、融通が利く分、曖昧なことが多くなります。
この含みがあるということを考慮して、施工図を作成しなければなりません。

基礎梁の形状

非住宅は、住宅と異なる形状の基礎を求められることがあります。
玄関で靴を脱ぐ日本の住宅は、FLの位置がGLよりも上にあるのが一般的です。
その場合、当たり前ですが基礎は立ち上がります。
それに対して、事業用の建物はGLとFLの高低差がなく、内部の基礎が立上らないことが多くあります。


基礎が立上っていれば、レベルの精度は出しやすいのですが、立ち上っていない場所にも精度を求められるのが非住宅です。
特に、柱脚で柱を立てるとなると、ミリ単位のレベルの精度を求められます。
そのため、施工図に不備があると、現場を止める原因になってしまいます。

立上と地中梁

また、非住宅は、地中梁を採用することが多くあります。
立上のないところに、構造的に基礎梁が必要になると、必然的に地中梁になります。


地中梁は、基礎と基礎の間を、文字通り地中に埋め込んで繋ぐ鉄筋コンクリートの梁です。
木造住宅でも人通口の下やビルトインガレージで、地中梁を入れて基礎梁が寸断されないようにしますが、一般的とは言えません。


この地中梁の大きさや鉄筋量は、構造計算によって算出されます。
上物の梁と同様に、荷重やスパン等によって決まってきます。
住宅を専門にする施工会社にとって、基礎計算はあまり馴染みのあるものではありません。
そのため、施工図を頼りに、施工をすることになります。


非住宅の場合、上物だけでなく、基礎も構造計算するケースが多く、施工図をしっかり整えておかないとトラブルの原因になります。
木造住宅は合理化が進んでいるので、施工図に頼らなくても、ある程度、現場で進めていくことができますが、非住宅は施工図に頼るところが多く、確認申請時の設計図書を、いかに施工図に落とし込むかが重要なポイントになります。

まとめ

図面は意思伝達するための道具です。
確認審査時には、計画が法適合しているか設計図書で確認します。
そして、施工図を使って現場へ施工に必要な情報を伝えていきます。
それぞれの工程毎に、意図が異なるため、誰に、何を伝えるかを意識して、施工図に落とし込んでいくことはとても重要です。


もし、計画中の案件で相談したい、または、非住宅木造の構造設計を相談する先がなく困っているという方がおられましたら、どうぞお気軽にご相談ください。

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福田 浩史

  • 構造設計一級建築士/コンクリート技士
  • 株式会社木構造デザイン代表取締役社長

1999年三重大学大学院工学研究科・建築学専攻・修士課程修了、同年4月に熊谷組入社、構造設計部に配属。主に鉄筋コンクリート造や鉄骨造の高層マンション、店舗設計など大型建築物の構造設計を担当する。2002年6月エヌ・シー・エヌに移籍し、2020年6月取締役執行役員特建事業部長に就任。年間400棟以上の大規模木造の相談実績を持つ。2020年2月木構造デザインの代表取締役に就任。