こんにちは。中大規模木造に特化した構造設計事務所 木構造デザインの福田です。
非住宅木造は、敷地の条件や建築主様の要望等で、建物が不整形になることがあります。建物が、平面・立面的に不整形になると構造検討が複雑になります。
木材は加工が容易なため、安易に斜めグリットの建物を計画してしまうと、構造の安全確保が難しくなります。このコラムでは、整形ではない建物の場合、構造的にどのような問題が発生するのかを解説します。
不整形なプランは、水平方向からの荷重で建物がどのように変形するのか想定するのが難しく、耐力壁の検討が複雑になります。
平面的に矩形な建物は、通常、X方向とY方向でつり合いを取り、4分割法などでバランス良く耐力壁を配置すれば良いのですが、不整形のプランではそうはいきません。
例えば、斜めの壁になると、その壁がどの程度X方向、Y方向に効いているのか簡単に計算することができません。基本的には45度で半分半分に配分するのですが、壁の長さをそのまま耐力壁とみなすことができず、あくまで壁の長さは斜めになった部分の実長に対して縦と横に振り分けます。
斜めグリットは、思っている以上に耐力壁が短くなってしまうため、偏ったプランになる傾向があります。そのため、偏心率が悪く成立しないということもあります。
斜めグリットのもう一つの問題は接合部です。接合部も斜めになっているため、納まりに問題が起こりやすくなります。金物工法は、耐力試験を直角でしか実施していないケースもあり、ちょっとした角度の違いで既製品が使えなくなることもあります。
制作金物になって、壁の配置、納まりも複雑になるとコストに影響が出てしまいます。斜めグリットの建物に、ラーメン構造が好まれるのはこのためです。柱と梁で建物全体を支える構造のため、納まりの検討を軽減することができます。
凹型・凸型のプランも耐力壁のバランスが悪くなるため、斜めグリット同様の問題が起こります。
一般的な軸組工法は、柱と梁で建物の自重や積雪、積載荷重等を支え、壁で地震や風の荷重を抑えるため、耐力壁の配置やバランスがとても重要になります。そのため、平面不整形の建物を計画する際には、耐力壁に注意が必要です。
階層の中間に床を設けるスキップフロアは個性的な空間を演出できるため、計画に取り入れたいと考える方が多いです。ただ、構造的な問題が生じやすく簡単に成立させることができません。
梁成の高さまでの段差であれば、構造的に平とみなして計算できますが、それを超えてしまうと、建物を二つに切り分けて計算しなければなりません。二つに切り分けて別々に計算するには、境界となる切り分けた面にも耐力壁が必要になります。
在来軸組工法は、2階の床や屋根などの水平構面が耐力壁の上部に「フタ」のようになり、箱状になることで剛性をとっています。そのため、「フタ」の役割をする水平構面と耐力壁は連続して繋がっていることが大前提になります。
スキップフロアや大屋根、吹き抜け、ロフト等を設けると、段差や床のない部分が大きくなります。段差や床のない部分が大きいと2棟に分割し、それぞれの水平構面に連続して繋がる耐力壁がバランスよく配置されているのかを検討しなければいけません。
スキップフロアの問題点は、各層ごとに水平構面の硬さを耐力壁に行き渡らせることができず、分断されているところにあります。基本的には、階層の境である床面、もしくは、屋根面が連続して耐力壁に繋がっている必要があります。
例えば、吹き抜けが大きく、床を切り分けなければならないケースがあります。吹き抜けが大きいと、水平構面が切れているとみなされるからです。
そうなると、建物を二つに分けて計算をしなければいけなくなります。水平構面が一体になっているエリアにある耐力壁は、同じグループとしてカウントされますが、二つに切り分けられた場合は、それぞれのエリアで耐力壁がバランスよく配置されていなければなりません。
スキップフロアが構造的に難しいのは、このためです。床面の段差が1mmもダメなのかというとそうではありません。先ほども記載したように梁成の範囲内なら構造的に平とみなすからです。それを超えてしまうと、水平構面が切れているとみなされる可能性が高くなるので注意が必要です。
立面不整形には2つのパターンがあります。1つは、スキップフロアのように、床が連続していないという水平方向への不整形。そして、もう一つが、床が連続していないことによる鉛直方向への不整形です。
床が連続していないことによる鉛直方向への不整形とは、簡単に言ってしまうと、1階建てと2階建ての建物が一つの建物に同居しているようなイメージです。
例えば、階高の高い倉庫に2階建ての事務所が併設しているような建物があるとします。倉庫部分の屋根面と2階建ての事務所の屋根面が連続していると、1階建ての屋根面の水平構面と2階建ての屋根面の水平構面が1つの建物に同居することになります。
このような建物の場合、倉庫と事務所の間をエキスパンションで切り、違うグループとしてカウントしなければいけません。
非住宅木造は、平面、立面的に不整形になることが多いです。例えば、幼稚園を計画するとなると、園児のために園庭とつながる開放的なプランやシンボリックな特殊な形状にしたくなります。
そうなると、どうしても平面不整形、立面不整形になってしまいます。構造的に成立が難しくなるケースもあります。プランが進んでからの計画変更には労力がかかります。ぜひ、初期段階から構造事務所を巻き込んで設計を進めてください。
福田 浩史
1999年三重大学大学院工学研究科・建築学専攻・修士課程修了、同年4月に熊谷組入社、構造設計部に配属。主に鉄筋コンクリート造や鉄骨造の高層マンション、店舗設計など大型建築物の構造設計を担当する。2002年6月エヌ・シー・エヌに移籍し、2020年6月取締役執行役員特建事業部長に就任。年間400棟以上の大規模木造の相談実績を持つ。2020年2月木構造デザインの代表取締役に就任。