こんにちは。中大規模木造に特化した構造設計事務所 木構造デザインの福田です。
「壁を配置できない」「筋交を入れたくない」など、軸組だけで構造を持たせたいという相談を受けることがあります。例えば、「渡り廊下を柱と梁だけで自立させたい」や「バスターミナルや駅舎の上屋を柱と梁だけで持たせたい」などの相談です。一見簡単そうに見えるのですが、木造はご存知の通りピン接合なので、柱と梁だけでは水平力に抵抗することができません。
特に、地震や風などの短期の外力に抵抗するには、筋かいや面材による耐力壁が必要になります。在来軸組工法は、フレームだけで自立させることができないため、何かしらの設計的な対応策が必要になります。
RC造や鉄骨造は、部材同士を一体化するように接合する剛接合です。そのため、外から力が加わっても接合部は変形しない特長があります。
一方、ピン接合は部材の接点が回転するように接合する方法です。非常にわかりにくいのですが、ピン接合は、一体化まではいかないものの部材同士を留め、多少の回転変形はする接合方法ということです。
構造設計者は、よく「耐力がある」という言葉を使います。「耐力がある」とは、力が加わっても変形しにくく、壊れにくいという意味です。面材や筋かいを使い柱と梁を固定する壁は、力が加わっても変形しにくく壊れにくくなります。一方、柱と梁だけの構造は、力が加わると接合部が動き、変形してしまいます。
木造の構造設計は地震力や風圧力によって決まると言っても過言ではなく、横からの水平力に対して建物を安全に抵抗する骨組みを設計することに重点が置かれています。
RC造や鉄骨造の接合部は溶接やボルトで固定し、ほぼ動かなくなります。剛接合は、部材同士を一体化するように接合するので、水平方向の力がかかっても接合部が変形しにくく、強い耐震性を得ることができます。
それに対して、ピン接合は縦や横にズレる力には抵抗するのですが、回転するような力には抵抗しません。柱と梁は接合する角度の90度を保ち続けなければいけないのですが、ピン接合は力が加わると変形してしまうので、回転をしないように面材や筋かいで耐力を高める設計が必要になります。
木造の接合部は、RC造や鉄骨造のような剛接合にはなりません。しかし、特殊な金物等を使い接合部を強くすることで、柱・梁だけで水平力に耐えられるフレームを作ることができます。このような軸組だけで水平力に抵抗できる架構をラーメン構造と言います。
柱と梁を強固に接合した木造ラーメン構造にすることで、筋かいや面材を使用せずにフレームだけで自立させることができます。木造は剛接合にならないと書きました。では、水平力に耐えるフレームを作るにはどうしたら良いのかというと、加わる力によって、接合部がどの程度回転するのか、回転変形に対する評価を事前に取り、その評価を組み込んで設計することで可能にしています。
そのため、回転変形に対する評価を取った接合部が必要になるのと、柱と梁だけで水平力に耐えるフレームにしなければいけないので、ある程度の太さの断面が必要になります。木造ラーメン構造は、「壁を配置できない」「筋交を入れられない」など、軸組だけで成立させる解決策の1つになります。
接合部を固める、もう一つの方法が方杖です。
方杖はピン接合に斜め部材を配置して、回転変形をしにくくする架構形式です。剛接合ではないのですが、三角形を作り固めることで変形を抑えます。耐力壁の配置に制約がある場合やオーバーハングなどの補強に利用します。壁を配置して耐力を取るか。それとも木造ラーメン構造するか。判断に迷った時の中間的な選択肢として方杖を採用することがあります。
「渡り廊下を柱と梁だけで自立させたい」や「駅舎やバスターミナルの上屋で柱と梁だけで持たせたい」という相談があった際には、必ず方杖の利用が候補に挙がります。しかし、どうしても材が出てきてしまうことと、渡り廊下などで幅が狭かったりすると方杖がクロスしてしまったりするので、意匠的にすっきり見せたいということになると木造ラーメン構造一択になってしまいます。
方杖を使う架構は、自重を支える仕組みとしては考えやすいのですが、地震や風の短期の外力にどの程度抵抗できるかを判断するには解析が必要になります。また、方杖は、思った以上に力が加わるので、接合部の破壊につながらないように注意しなければなりません。
また、方杖を設けることで梁の支点間距離が短くなるので、鉛直の荷重に対してのたわみを軽減する効果があります。ただ、取り付く部分に大きな力が加わるため、方杖に押される柱が折れないように、大きな断面が必要になることもあります。
在来軸組工法は、「壁を配置できない」「筋交を入れたくない」など、軸組だけで持たせる構造には向いていません。そのため、木造ラーメン構造や方杖構造も選択肢に入れて設計を進める必要があります。
福田 浩史
1999年三重大学大学院工学研究科・建築学専攻・修士課程修了、同年4月に熊谷組入社、構造設計部に配属。主に鉄筋コンクリート造や鉄骨造の高層マンション、店舗設計など大型建築物の構造設計を担当する。2002年6月エヌ・シー・エヌに移籍し、2020年6月取締役執行役員特建事業部長に就任。年間400棟以上の大規模木造の相談実績を持つ。2020年2月木構造デザインの代表取締役に就任。