こんにちは。中大規模木造に特化した構造設計事務所 木構造デザインの福田です。
延床面積500㎡以下、2階建て以下等の条件を満たす木造建築物が、確認申請時の構造審査を省略できる、いわゆる「4号特例」が2025年の法改正で大幅に縮小されます。
今年の秋頃に改正建築基準法施行令が公布される予定で、現在わかっているのは、昨年10月に公表された「木造建築物における省エネ化等による建築物の重量化に対応するための必要な壁量等の基準(案)の概要」になります。
この内容から、今後、どのような対応が必要になるのか考えてみたいと思います。
国土交通省が作成した公報資料では2025年の法改正の要点は大きく3つです。
では、この法改正によって、何が変わるのか?
まず初めに、4号特例について簡単に解説します。
4号特例は、建築基準法6条1項4号に明記されている、特定の条件を満たせば、建築確認時の構造審査を省略できるという規定です。
この4号を取って4号特例と呼ばれています。
どのような条件を満たせば良いのかというと下記になります。
・木造2階建て以下の建物・500㎡以下
・建物の高さ13m以下、軒高9m以下
・特殊建築物ではない建物
この内容が、2025年の法改正で大きく替わります。
上記の表をご覧ください。
(現在の区分けと一致しない部分があり、まぎらわしいところがあります。ご了承ください)
法改正後、現行の4号建築物はなくなり、新しい3号建築物と2号建築物に分かれます。
新3号建築物は、木造平屋の200㎡以下の建物で、現行法と同じように一部の図書の省略が可能です。
そして、新2号建築物は、4号建築物に該当する範囲では審査区分が2つに分かれます。
1つが仕様規定での審査区分です。木造平屋の200㎡超、300㎡以下。
そして、2階建ての300㎡以下の建物がこれに該当します。
この区分では、今まで省略することができた構造関係の規定等の図書が確認申請時に必要になります。
もう一つが、構造計算(許容応力度計算)が必要になる区分です。
現行法では、500㎡以下の建築物は構造計算が求められず、スピーディーな確認申請が可能でした。
しかし、改正後は平屋、2階建ての300㎡を超える規模になると構造計算が必要になります。
高さに関しても法改正があります。
現行法では、最高高さ13m超かつ軒高9m超、4階建て以上の場合許容応力度等計算・保有水平耐力計算が必要でした。
しかし、2025年の法改正で、この高さの規定が16m超、4階建て以上に緩和されます。
このように「建築確認・検査」「審査省略制度」の対象範囲が大幅に変わります。
では、現在、公表されている「木造建築物における省エネ化等による建築物の重量化に対応するための 必要な壁量等の基準(案)の概要」を詳しく見ていきます。
「木造建築物における省エネ化等による建築物の重量化に対応するための 必要な壁量等の基準(案)の概要」は、大きく3つのことが示されています。
1.必要な壁量に関する規定(建築基準法施行令第46条第4項等関連)
2.柱の小径に関する規定(令第43条関連)
3.設計上の留意事項各項目を見ていきます。
1つ目の「必要な壁量に関する規定」では、壁量計算における必要壁量を確認する方法が3つ示されています。
(1)個々の建築物の荷重の実態に応じてより精緻に検証する方法<方法①>
(2)簡易に必要な壁量を確認する方法<方法②>
(3)構造計算により安全性を確認する方法<方法③>
「(2)簡易に必要な壁量を確認する方法」が現状の壁量計算に近く、感覚的にわかりやすいので(2)から解説していきます。
現行法の係数に加え、新たに「ZEH水準等の建築物(案)」が追加されました。
例えば、現行法の平屋の重い屋根と比較すると、平米あたり15cmの壁量で良かったものが、ZEH水準等になると25cm必要になります。
単純計算ですが、1.6倍になります。
平屋の軽い屋根で比較すると2.27倍、2階建ての軽い屋根の1階の場合は1.8倍の壁量を確保する必要があります。
注意すべきは多雪エリアです。
多雪エリアは、現在の建築基準法では規定がなく、枠組壁工法を参照となっています。
この係数が、「ZEH水準等の建築物における必要な壁量に関する基準(案)」で追加されました。
例えば、多雪1m区域の平屋の場合、39cmになります。
ZEH水準等と比較しても、1.5倍から2倍の壁量を増やさないといけません。
続いて、「(1)個々の建築物の荷重の実態に応じてより精緻に検証する方法<方法①>」です。
<方法①>は、建物の荷重の実態に応じて算定する必要壁量によって確かめる方法です。
屋根、壁、床の単位重量を把握して、階高の設定、各階の面積比等の条件から係数を算出します。
<方法①>は、先程の<方法②>と比べると、計算に時間がかかりそうです。
ただ、こちらも早見表が公開されています。
この早見表は国土交通省から依頼を受けた建築防災協会から公開されています。
では、<方法①>と<方法②>で、どのくらいの違いがあるか比較してみましょう。
例えば、軽い屋根2階の1階で階高2.8m、上下階面積比100/100で比べると、<方法①>が1.35倍に対して、<方法②>は1.82倍になります。
<方法①>は壁量を抑えることができ、準耐力壁等の高倍率壁も採用することができます。
そして、最後に、「構造計算により安全性を確認する方法<方法③>」です。
構造計算により確かめる方法については、現在公表されている資料では大きな変更はありません。
どの方法を採用するかによって、壁量が変わってきます。
状況に応じて、どの方法にも柔軟に対応できるように準備する必要がありそうです。
続いて、「柱の小径に関する規定(令第43条関連)」についてです。
省エネ化に伴って建物が重量化しているため、柱の小径も見直される予定です。
低層の木造建築物では、柱の断面が105mmか120mmを使うことが多いです。
これは基準法の43条に書かれている、横架材相互間の垂直距離の長さ(階高とは異なります)に対して、1/30以上の幅を確保した柱を使用するという規定によるところが大きいです。
この現行法に対して、2025年の法改正では、ZEH水準等の建築物と多雪区域という2つの項目が追加される予定です。
今まで1/30であったものが、ZEH水準等の建築物で1/25に、ZEH水準等の建築物(多雪区域)では1/20になります。
平屋の㈡分類で比較すると、1/30の場合、105mmで計算すると横架材相互間の垂直距離の長さは3150㎜です。
そして、120mmで計算すると3600mmです。
しかし、1/25になると、105mmだと2625mm。
そして、120㎜だと3000㎜となります。
非住宅の場合は階高が高くなることが多いので注意が必要です。
この規定も構造計算をすることによって、柱の断面を抑えることができます。
コスト等を鑑み、簡易的な検討の建物なのか、構造計算をして断面を選定していく建物なのか選択が必要になるかもしれません。
最後は、「設計上の留意事項」です。
設計上の留意事項は、「床組等の検討」「接合部の検討」「横架材及び基礎の検討」の3つです。
現行の建築基準法に今まであまり記載されていなかった床組・接合部・横架材および基礎の仕様と検討が、この留意事項によって、審査されるようになります。
検討方法は性能表示制度で規定する方法になります。
床組等については、床の水平構面の検討です。
考え方は壁倍率と同じで、必要床倍率に対して、存在している床倍率を多く確保するというものです。
接合部については、主に外周部分の柱・梁の接合部を確認し、耐力壁線間距離と張間距離等で調整する方法。
横架材及び基礎については、性能表示制度の告示に従いながら、床梁の必要断面や基礎梁の必要配筋を満たす仕様規定です。
新2号建築物は、仕様規定の設計図書の提出が必要になります。
そのため、確認申請の段階で基礎を含めた構造図を用意しなければなりません。
そして、申請後に構造部分の修正がある場合は、設計変更をしなければなりません。
今までは、確認申請を提出するタイミングでプレカット工場と構造の部材を決めていくことが多かったと思います。
2025年の法改正後は申請する前に構造を確定しておく必要があります。
作業プロセスをしっかりとイメージしておかないと、申請が後手に回ってしまう可能性があります。
設計段階の仕様と施工の整合性も当然取らなければならないので、構造図とプレカット図の整合性が必要になります。
プレカット図を構造図にする方もおられると思いますが、申請の前までに整える必要があるので、こちらも注意が必要です。
非常に大きな法改正になりますので、随時、情報を発信していきます。
福田 浩史
1999年三重大学大学院工学研究科・建築学専攻・修士課程修了、同年4月に熊谷組入社、構造設計部に配属。主に鉄筋コンクリート造や鉄骨造の高層マンション、店舗設計など大型建築物の構造設計を担当する。2002年6月エヌ・シー・エヌに移籍し、2020年6月取締役執行役員特建事業部長に就任。年間400棟以上の大規模木造の相談実績を持つ。2020年2月木構造デザインの代表取締役に就任。