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木構造研究室

木造の工場|構造設計のポイントは?40m×70mの木構造を解説

こんにちは。中大規模木造に特化した構造設計事務所 木構造デザインの福田です。

木造の工場の構造設計をする機会がありました。

40m×70mの外枠サイズのかなり大規模な建物でしたが、その構造を、どのようなステップで成立させたのかを今回お話ししたいと思います。

構造計算上の解析や数字上の応力というものではなく、考え方のステップを中心にお話します。

工場や倉庫など、大空間を木造で計画されている方には参考になると思いますので、ぜひ、ご一読ください。


目次
3000㎡弱の木造工場を実現するには?
木造の基準サイズとは?
40m飛ばすのは可能性がゼロではないが…
構造、コストの効率から合理的に角度を決める

1250基礎を上げる

まとめ


3000㎡弱の木造工場を実現するには?

2年ほど前、お客様から工場を木造で計画したいという相談をいただきました。

40m×70mの外枠サイズの3,000㎡弱の工場で、機械や資材を置くために、階高は有効で5m確保したい、できれば特殊な材ではなく、流通材を使ってという要望でした。


このサイズ感の工場を木造で計画するとなると、意匠設計の方、クライアントの方と課題を共有しておく必要があります。

特に初期の段階で、木造ならではの課題を解決しておかなければなりません。

中大規模木造と言っても、木造の構造計画の体系や、生産技術、プレカット加工、流通等は、住宅の市場で成熟してきました。

そのため、木造住宅の基準がベースになっていて、そこから外れるものが課題になってきます。

木造住宅の基準サイズとは?

通常、木造住宅は、構造計算というよりも璧量計算の仕様規定に則って構造計画を行います。

そのため、壁量計算の仕様規定を基準と考えます。

璧量計算の前提となっているものは、2階建て200㎡程度の在来工法の住宅。

建物のサイズは10m×10m程の総2階のものになります。

その10mスパンを2分割から3分割にして、5mから3m程度の柱割にしながら、計画することが多く、柱のサイズは105角、あるいは120角を使用するのが一般的です。

流通材と言われるのは、この柱のサイズです。

この流通材を使うことを前提に細長比から逆算すると階高は3m~3.5mになります。


今回の40m×70mというスパン、そして、階高5mという要望は、この木造住宅の基準サイズから大きく外れます。

<関連コラム>ケーススタディで学ぶ 大空間施設 木構造の考え方【前編】

<関連コラム>ケーススタディで学ぶ 大空間施設 木構造の考え方【中編】

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40m飛ばすのは可能性がゼロではないが…

木造で40mを飛ばすことは、可能性がゼロではないのですが難易度が非常に高いため、今回は真ん中に柱を設け、半分の20mスパンで計画することになりました。

ただ、木造で20mも、なかなか実現が難しいスパンです。

20mのスパンを一本の通直材にするか、小さな部材をつなぎ合わせるトラスにするかという検討項目は、流通材を使いたいという要望があったので、トラスで進めることになりました。


ただ、一般的にスパンが飛ぶ場合は、はじめに、どのくらいの梁成・トラス成が必要なのかを見ていきます。

通常の屋根荷重であれば、目安としてスパンの1/18から1/20で概算を出すことができます。

そうすると、20mのスパンであれば、1mを超えるような梁成が必要になります。

1mとなると梁幅も150㎜程度必要になります。

20mを1本もので検討するのは難しいということがわかります。


トラスも同じように、トラス成が問題になります。

大きなトラスの成、屋高を意匠的に成立させることができるか早い段階で確認する必要があります。

今回は、20mの2スパン、総サイズ40mという工場です。

そうなると、トラス成が階高と同じくらい必要になります。

20mを1.7寸の屋根勾配で上げていくと4400㎜程の棟高になり、その屋高でトラス成を収めることになります。


<関連コラム>木造トラス構造のメリット・デメリット|トラスと大断面のコストを比べてみた


中大規模木造に取り組むべき理由とその取り組み方

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  • なぜ、中大規模木造が注目されているのか?
  • なぜ、500㎡を超えると木造化率が低下するのか?
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構造、コストの効率から合理的に角度を決める

高さを抑えたトラスもありますが、突っ張る材料の角度を寝かせてしまうと、構造的に耐える力が弱くなり、引っ張りと圧縮が効かなくなってしまいます。

荷重に対して突っ張り、引き上げる力の流れがトラスの考え方です。

いかに合理的にこの角度を決めるのかというのが構造の効率、コストの効率から重要になります。

このあたりは、専門家に相談しながら進める必要があります。

また、これだけ大きな建物を、地震や風に抵抗させなければなりません。

耐力壁やブレースが必要になり、工場内に計画しました。

比較的、添え壁、控え壁を設けることができる計画だったので、外周部に控え壁を設置しました。

中央に置いた柱の付近に棚や倉庫を設け、邪魔にならないようにブレース、筋違を設けました。

1250基礎を上げる

5mの階高は、細長比をクリアするために、基礎の高さを上げて対応しました。

工場なので、運搬の車やフォークリフトが万が一ぶつかるということも想定して、1250基礎を上げ、流通材の柱で有効高を確保しました。


このようなやり取りを繰り返し、最終的に構造に必要な断面、耐震要素を計画の中に入れ込みました。

外壁面に関しては耐力合板を併用しながら構造的に成立させました。

当然、高さが高くなると、屋根の荷重を中央の耐力壁に伝達するような計画も必要になってきます。

屋根の構面と桁周りの耐力壁にもしっかりと力が伝わることも、構造計算上、配慮しながら設計を行う必要があります。

まとめ

中大規模木造であっても、まずは、住宅の基準サイズを照らし合わせ、基準から外れる課題を解決していきます。


中大規模木造の典型的な課題は、大スパン、耐力壁、水平構面、そして、階高です。

それぞれの課題を洗い出し、意匠、調達、加工、コスト等を考慮しながら解決をしていきます。


木構造の専門知識が必要なことも多く、計画の際は、専門家のアドバイスが必要なことも多くあります。

もし、お近くに相談できる木構造の専門家がいない場合は、どうぞ、木構造デザインにお気軽にご相談ください。

年間500件以上の中大規模木造の相談に対応しております。

メール、お電話にてお問い合わせください。

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福田 浩史

  • 構造設計一級建築士/コンクリート技士
  • 株式会社木構造デザイン代表取締役社長

1999年三重大学大学院工学研究科・建築学専攻・修士課程修了、同年4月に熊谷組入社、構造設計部に配属。主に鉄筋コンクリート造や鉄骨造の高層マンション、店舗設計など大型建築物の構造設計を担当する。2002年6月エヌ・シー・エヌに移籍し、2020年6月取締役執行役員特建事業部長に就任。年間400棟以上の大規模木造の相談実績を持つ。2020年2月木構造デザインの代表取締役に就任。