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木構造研究室

木造トラス構造のメリット・デメリット|トラスと大断面のコストを比べてみた

「困った時のトラス構造」は、正解なのか⁉

こんにちは。中大規模木造に特化した構造設計事務所 木構造デザインの福田です。

流通材を使って大スパンが実現できるトラス構造は、大断面より経済的というイメージがあります。

しかし、専門家の立場からすると少し印象が異なります。

もちろん、経済的なトラス構造も多くあるので、間違いではないのですが、条件次第で一概に言えないところがあります。

「トラス構造は万能!」といった偏った思い込みをしていると痛い目を合うことがあります。

今回は実例を用いて、トラス構造のメリットとデメリット、また、どのような点に注意すればいいかを詳しく解説します。


目次
トラス構造とは
トラス構造のメリット
トラス構造のデメリット
トラス構造と大断面のコストを比較検討すると・・・
大断面120×630mmのダブル梁と比較
念のため、10mスパン、2mピッチのトラス構造でも試算
現場作業の負担が大きいトラス構造を考えると・・・
まとめ


トラス構造とは?

中大規模木造の普及によって、トラスを使って、スパンを飛ばした木造建築物が増えています。

トラス構造とは、3本の部材を三角形に構成することで、荷重がかかっても各部材に軸力しか発生せず、曲げモーメントを受けにくい構造形式のことです。

構造的に安定性が高いため、大空間・大スパンの体育館やドームの屋根、橋梁等に用いられることが多いです。

トラス構造のメリット

トラス構造には、多くのメリットがあります。

代表的なものを紹介すると、

  • 部材間に軸力しか作用しないため、細い部材で構造設計すること可能
  • 現すことで意匠性を表現することができる
  • トラス架構を利用して、断面を傷つけずに設備配管を通すことができる

などです。

トラス構造のデメリット

しかし、上記のようなメリットがある一方、トラス構造には以下のデメリットがあります。

  • 接合部が複雑なトラスを組み上げなければならないので、施工に労力がかかる
  • トラス架構のため、階高を高くとる必要がある
  • トラス構造を取り扱うプレカット工場が少ない

そのため、メリット、デメリットを吟味してどちらを採用するかを決める必要があります。

トラス構造と大断面のコストを比較検討すると・・・

先日、とある工務店様から木造で計画中の工場の相談を受けました。
集成材も製造しているプレカット工場とタッグを組んでプロジェクトを進めていたのですが、構造的なサポートが必要になったとのことで弊社にご連絡をいただきました。

たまたま大断面の調達が可能なプレカット工場が参画していたため、トラス構造以外も選択肢にいれつつ、比較検討をしながら構造設計を行いました。

一般的にスパンが9mから10m程度までは通直材で対応することが多く、それを超えると特定工法のトラス構造や張弦梁などで最適なものを検討します。

相談があった工場は、約800㎡の平屋で20mを10mのスパン割りをして柱を立てるという非住宅によくあるプランでした。
トラス構造で組むことも可能な計画でしたが、大断面も選択肢に入れつつ、数パターンの数量を拾い比較検討しました。


大断面120×630㎜のダブル梁と比較

大断面は240×630㎜の梁を作ることも可能でしたが、階高とコストを鑑みて120×630㎜のダブル梁を採用することにしました。
トラス構造に関しては屋根の形からトラスの形状を決め、プランに影響が出そうなところを洗い出しました。

トラス構造で設計した場合2~3mのピッチでフレームを入れていくのが一般的なため、工場の中央に2mピッチで柱が入ることになりました。
しかし2mピッチで柱が入ると、工場内のフォークリフトの移動や機械の配置に支障が出ることがわかったため、柱をなくし20m飛ばしたプランで比較することになりました。

同様に大断面でもプランへの影響を検討したところ、柱のピッチを5mにすることが可能でした。
ピッチが5mあると、フォークリフトや機械の配置に支障をきたさないことがわかり、大断面は柱ありを採用しました。

ただ、ピッチが広がれば広がるほど荷重の負荷が増え、部材の断面が大きくなるので中央の柱はサイズアップが必要になりました。
トラス構造の場合、中央の柱は120㎜角で済んだのですが大断面の場合は240㎜角が必要になりました。


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念のため10mスパン、2mピッチのトラス構造でも試算

コストを算出してみると、トラス構造で20m飛ばす計画は、大スパンのため壁量も増やさなければならず、予算が膨らんでしまい、最終的に10mスパンで柱を入れる大断面120×630㎜のダブル梁に決定しました。

念のため10mスパン、2mピッチのトラスでも試算してみると流通材を使うことができても、フレーム数量が増えた分材積量が膨らんでいました。
5mピッチで柱を入れると大断面と、2mピッチで柱を入れるトラスで比較してみるとトラスの方が20㎥ほど材積が多くなっていました。

単純な掛け算なのですが、フレーム数量が多くなる分大断面の1本ものでピッチを飛ばした方がトータルのコストを抑えることができたのです。


現場作業の負担が大きいトラス構造を考えると・・・

さらにトラスの場合は、地組をして起こさなければいけないので現場作業の負担が大きく、非住宅木造に不慣れな方にとってトラス施工は不安材料になります。

一方大断面は、住宅の延長線上で施工が可能です。
長材の組み上げに不安がある場合は、建て方まで請け負うプレカット工場もあるので、作業負担の軽減も可能です。


まとめ

トラス構造のメリットとして、流通材を使用してスパンを飛ばすことができるので、手配しやすく、材の単価自体はやすくおさえることができます。
ただ、案件によっては全体の材積が増えてしまい、総額が増え、また、作業負担も増えてしまうことがあります。
そのようなデメリットがあることをしっかりとおさえておきましょう。

このような案件の場合、コストや作業負担を含め総合的に判断する必要があります。
安易に決めてしまうと割高で施工の難易度が高く、尚且つ、事業主に不便を強いるプランを提案してしまう可能性があります。

非住宅木造はいろいろな要素が絡み合うため、パートナーとの協力体制が不可欠です。
単純梁は、製造、コスト、運搬等を考えると10mを超えるものは合理性に欠けます。
そのため、一般流通材でコストを抑えられるトラス構造ということになります。
しかし「困った時のトラス」「トラスは万能だ」という偏った思い込みでプロジェクトを進めてしまうのは非常に危険です。

トラス構造で計画する場合は大断面まで選択肢に入れ、比較検討しながら進めていくことをお薦めしています。

もし、トラス構造と大断面の選択でお困りでしたら、お気兼ねなく、ご相談ください。


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福田 浩史

  • 構造設計一級建築士/コンクリート技士
  • 株式会社木構造デザイン代表取締役社長

1999年三重大学大学院工学研究科・建築学専攻・修士課程修了、同年4月に熊谷組入社、構造設計部に配属。主に鉄筋コンクリート造や鉄骨造の高層マンション、店舗設計など大型建築物の構造設計を担当する。2002年6月エヌ・シー・エヌに移籍し、2020年6月取締役執行役員特建事業部長に就任。年間400棟以上の大規模木造の相談実績を持つ。2020年2月木構造デザインの代表取締役に就任。