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木構造研究室

構造設計者が少ない理由

構造計算の体系が整いはじめて、まだほんの30年


こんにちは。木構造デザインの福田です。

2010年に施行された「公共建築物等における木材の利用促進法」によって、木造化が一気に進みました。

この法律は、

  • 戦後植林した人工林が伐採期を迎えていること
  • 外材利用が促された結果、国内の森林の高齢化が進んだこと
  • 高齢化によってCO2の吸収が衰える時期に差し掛かっていること

という背景があります。

また、資源のリサイクル、脱炭素社会の実現、SDGsなど、環境問題への関心の高まりも理由の1つです。

2010年以降、様々な法律が改正され、それまでは鉄骨造・RC造でしか建てられなかったものが木造で建てられるようになり、CLTなどの新しい木質材料の実用化も急ピッチで進みました。

なぜ、木造で建てられないのか?


日本では古来より様々な大規模建築物が木造で建てられてきました。法隆寺の五重塔や東大寺の大仏殿などの巨大な建物も伝統工法と呼ばれる工法でつくられています。

しかし、1919年に市街地建築物法が公布され、時を同じくして1923年に関東大震災が起こりました。それ以降、火災や自然災害の対策として様々な法律が整備されました。

1950年に建築基準法が公布され、高さ13m、軒高9m以上、または、延べ面積が3000㎡を超える建築物は主要構造物を木造にしてはならないという規定が設けられ、同1950年に都市建築物の不燃化の促進に関する決議が行われました。

また、戦中・戦後の大量伐採の結果、森林が大きく荒廃し、1940年から50年代に全国各地で山林災害や水害が発生し、51年に森林法が改正され、伐採規制が強化されました。

59年には日本建築学会から建築防災に関する決議がされ、防火・台風水害を考えて2階建て以上の木造が禁止になります。この年から、大型の木造建築物が建てにくくなりました。それから約40年間、木造の技術革新がほぼストップしてしまいます。

規制緩和と国の後押しがあっても、時すでに遅し


しかし、1980年代に入ると木造が見直されることになります。

87年に建築基準法が改正され、高さ制限の緩和や準耐火構造(燃え代設計)戸建住宅の木造3階建てが可能になりました。青本と呼ばれる構造計算の教本が発売されたのもこの頃です。

このことからもわかる通り、木造の構造計算の体系が整いはじめたのは、まだほんの30年程なのです。そのため、現在も木構造に関する知見は固まりきれていないというのが実情です。

公共建築物等における木材の利用促進法

2000年の建築基準法の改正によって、耐力壁の配置にバランス計算が必要となり、地耐力に応じた基礎構造が規定されます。木造住宅の構造計算を含めて法整備や基準書の整備がなされました。

そして2010年に「公共建築物等における木材の利用促進法」が制定され、公共に限らず民間建築物にも木造が普及しはじめました。

中大規模木造の技術者が極端に少ない理由は、このような歴史的な背景があるからです。もしお近くで非住宅に専門特化した構造設計事務所が見つからない場合は、お気軽に木構造デザインにご連絡ください。工法を問わず全国に対応しています。ご相談はこちら

福田 浩史

  • 構造設計一級建築士/コンクリート技士
  • 株式会社木構造デザイン代表取締役社長

1999年三重大学大学院工学研究科・建築学専攻・修士課程修了、同年4月に熊谷組入社、構造設計部に配属。主に鉄筋コンクリート造や鉄骨造の高層マンション、店舗設計など大型建築物の構造設計を担当する。2002年6月エヌ・シー・エヌに移籍し、2020年6月取締役執行役員特建事業部長に就任。年間400棟以上の大規模木造の相談実績を持つ。2020年2月木構造デザインの代表取締役に就任。