こんにちは。中大規模木造に特化した構造設計事務所木構造デザインの福田です。
中大規模木造は木材の使用量が多く、特殊な樹種や材寸の手配があるためウッドショックで木材が不足した時、プレカット工場が積極的に見積もりをしなくなりました。
昨年「プレカット工場に断られて困っている」という相談を本当に多くいただきました。
そのような時、どのように対応するのか?
構造的な視点で対処法を紹介したいと思います。
一つ事例を紹介すると、500㎡ほどの福祉施設を秋に上棟する予定で確認申請を済ませ、あとは見積もりを整え契約という段階でプレカット工場から「見積れない」と断られたそうです。
別の工場にも問い合わせたのですが、いい回答が得られず計画は宙に浮き、困り果てていました。
図面を確認すると、ウッドショック下では即座に断られるものでした。
米松やレッドウッドなど入手が困難な樹種ばかりがスペックインされていて、加工しようとしてもできない仕様だったのです。
手配できない材料の図面をプレカット工場は受け取りません。
数字だけ計算して図面化する木造に不慣れな構造設計士に依頼するとこのような問題が起こります。
しかし、大半の構造設計士は木材の調達に関しては専門外です。
例えば、入手困難な米松やレッドウッドを調達しやすい杉に仕様変更しようとすると、ヤング係数が足りないため構造計算からやり直さなければなりません。
プランの修正も関わってくるので初期の初期まで戻ることになる上に、確認申請も出し直しになるので数ヵ月の作業になります。
先程の方は、設計変更せずに進めようとして加工してくれる工場を探したのですが、探してる間に状況がさらに悪化してしまい、手の打ちようがなくなっていました。
このような問題が全国各地で起きました。
実はウッドショック下に限らず、平時でも中大規模木造では同じような問題が起こっていました。
中大規模木造の場合、特殊な樹種や材寸を使うので木造に不慣れな構造設計士に依頼すると、入手困難な樹種で、なおかつ加工困難な材寸で図書をつくってしまいます。
そして、その図書で確認申請を通してしまうと、材料が手に入らない、加工ができない、という理由で工場に断られてしまいます。
実際に、東北の案件で、近くで加工できる工場がないため九州のプレカット工場が行うということがありました。
中大規模木造は材料の調達やプレカット工場との情報共有がとても重要です。
ウッドショックによりこの問題が、より如実に表れてしまったのです。
ウッドショックのような緊急時はもちろんのこと、調達が難しい木材を使用する場合はちょっとした構造設計上のテクニックを使うと、問題を回避できます。
それは、設計図書の中で仕様を限定せず、樹種の変更を可能にしておくことです。
一般の木造住宅ではほとんど行わないのですが、例えば「RW集成材同等以上」や「ヤング係数E105以上」と幅を持たせた内容で計算書に記載しておくのです。
計算書で記載していない樹種を使うと契約不適合になってしまいますが、仮で低位の材料で設計しておいて「同等以上」という記載があればそれ以上の材料への変更なら許可がなくても可能です。
そのような図面であれば、もしもの時、設計し直す必要はありません。
特に、先程のような事例の場合は注意が必要です。
米松やレッドウッドなど強度のある木材を、強度の低い杉のような木材に変更しようとすると、断面の変更が必要になります。
そうならないためにも、ある程度幅を持たせた設計図書にしておくのです。
ウッドショックによって突然木材がなくなってしまい急ぎの案件には、国産材へ切り替えたり、LVLなどへ変更したりすることもありました。
そのような不測の事態にも対応できるように、構造的な事前準備をしておきましょう。
材料の調達が難しい時に、中大規模木造の計画を進める場合は最悪の状態を想定してある程度幅を持たせた設計図書を作ることが重要です。
図面の書き方1つで回避できる問題が多くあります。
木造を専門にする構造設計事務所に依頼するとそのような対策もしてもらえるのでぜひ、チェックしてみてください。
福田 浩史
1999年三重大学大学院工学研究科・建築学専攻・修士課程修了、同年4月に熊谷組入社、構造設計部に配属。主に鉄筋コンクリート造や鉄骨造の高層マンション、店舗設計など大型建築物の構造設計を担当する。2002年6月エヌ・シー・エヌに移籍し、2020年6月取締役執行役員特建事業部長に就任。年間400棟以上の大規模木造の相談実績を持つ。2020年2月木構造デザインの代表取締役に就任。