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木構造研究室

木造の耐火建築物|木造初心者が押さえるべき関連法案まとめ

こんにちは。中大規模木造に特化した構造設計事務所木構造デザインの福田です。

都市部での木造施設が増えています。
ただ、木造に取り組む際に問題になるのが耐火構造への対応です。

特に、施設建築の場合、商業地域や幹線道路沿いの「防火地域」での建築が多くなるため、立地からの制限がかかることが多くあります。

また、不特定多数の人が利用する施設は、万が一、火災が発生した場合、人命や周辺への被害が甚大なものになる可能性が高いため、耐火措置を施すように強い規制が設けられています。

大規模な施設で、RC造や鉄骨造が多かったのは、この規制のためです。

しかし、2000年の建築基準法改正、2010年の「公共建築物等における木材の利用促進法」の施行によって、木造化する動きが活発になっています。
ただ、規制が緩和されてからまだ日も浅く、耐火木造に詳しい専門家が少ないため、対応に苦慮する技術者も多くおられます。

このコラムでは、木造初心者、木造の施設建築に挑戦しようとお考えの方に最低限押さえておいてほしい耐火建築物の関連法案をまとめて解説します。
ぜひ、参考にしてください。


目次
耐火建築物とは?
耐火と防火
耐火建築物と準耐火建築物の違い
耐火建築物の技術的基準について
 政令で定める技術的基準を満たす耐火構造とする適合ルートA
 耐火性能検証法 適合ルートB
 高度な検証法 適合ルートC
耐火建築物にしなければいけない特殊建築物
用途による制限
規制による制限
立地による制限
主要構造部は「防火・避難の観点から考えた主要な部分」
耐火建築物の建築基準法のポイントを整理
まとめ


耐火建築物とは?

耐火建築物とは、主要構造部(柱、梁、床、屋根、壁、階段等)に一定の耐火性能を備えた建物のことです。

不特定多数の人が利用する施設で火災が発生した場合、被害が甚大なものになるため、少なくとも建物の利用者が避難するまでの間は倒壊することなく、近隣への延焼を防ぐ措置を施すことが義務付けられています。

耐火建築物は階数や構造の種類によって異なりますが、主要構造部が最長3時間、火災に耐える性能が求められます。

また、外壁の開口部からの延焼を防ぐために防火設備にする規制が設けられています。


中大規模木造に取り組むべき理由とその取り組み方

この資料では、下記の内容を紹介しています

  • どのように非住宅木造に参入するか?
  • なぜ、中大規模木造が注目されているのか?
  • なぜ、500㎡を超えると木造化率が低下するのか?
  • 中大規模木造で失敗しない5つのポイントとは?

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耐火と防火

防火は建物の周辺で発生した火災での延焼を抑えることが主な目的で、延焼を抑制するために防火性能を持つ外壁や軒裏を使用することが義務付けられています。

耐火は、屋内や屋外で火災が起こった際に、火災が終わるまで倒壊せず、周辺への延焼を防止することを目的にしています。

RC造は躯体自身が耐火性能を持ち、鉄骨造や木造は耐火性能を持たないため、耐火被覆や防火被覆が必要になります。

耐火建築物と準耐火建築物の違い

準耐火建築物は、耐火建築物の条件を満たしてはいませんが、それに準じる耐火性能を持つ建物を言います。

耐火建築物が最大3時間なのに対して、準耐火建築物は最大1時間、主要構造部が火災に耐えられることが求められています。

耐火建築物の技術的基準について

木造で耐火建築物の技術的基準を満たすためには、以下の3つのルートがあります。

耐火建築物と認められるために、主要構造部・外壁開口部において、定められた技術的基準を満たさなければなりません。

技術的基準と同様に、告示で定められた例示・仕様、試験等により性能が確認され、国土交通大臣の認定を受けた工法を採用する必要があります。

技術的な基準には3つのルートがあります。


1.政令で定める技術的基準を満たす耐火構造とする適合ルートA

2.耐火性能検証法による適合ルートB

3.高度な設計法による適合ルートC

政令で定める技術的基準を満たす耐火構造とする適合ルートA

仕様規定による適合ルートAは、火災による倒壊および延焼を防止するために必要とされる耐火性能を有する壁・床・屋根・柱・梁・階段を耐火構造にし、延焼のおそれのある外壁開口部に防火設備を使用した構造です。木造の場合、政令で定める技術的基準は、


①大臣が定めた工法

・石こうボードなどの耐火被覆による「メンブレン型耐火構造」


②大臣認定を受けた工法

1.石こうボードなどで耐火被覆による「メンブレン型耐火構造」

2.難燃処理剤やモルタルなどで燃え止まり層をつくる「燃え止まり型耐火構造」

3.構造上主要な部分に使用した鋼材を木材で防火被覆する「鋼材内臓型耐火構造」

があります。


・メンブレン型耐火構造

石こうボードなどで構造部材を耐火被覆する構造を「メンブレン型耐火構造」と言います。
被覆することで、木造軸組構法や2×4工法、CLT工法等の主要構造部を耐火構造にすることが可能です。この技術によって、木造共同住宅、4階建て建築物等、これまで木造では建てられなかった建築物が広く建設されるようになりました。


・燃え止まり型耐火構造

国土交通大臣の認定を受けている構造用集成材の柱や梁の部材内部に石こうボード等で燃え止まり層をつくる耐火構造。


・鋼材内蔵型耐火構造

国土交通大臣の認定を受けた鉄骨を集成材などの木材の厚板で被覆することで性能を確保する耐火構造。

耐火性能検証法 適合ルートB

耐火性能検証法は、天井が高く、大きな空間をつくることによって、火災時に熱がこもりにくくする対策をとることで梁材を現しにすることができます。
耐火構造にしなくても耐火建築物にすることができる方法です。

高度な検証法 適合ルートC

大臣認定を受けた高度な検証法による木造耐火建築物です。
耐火性能検証法を基本として、部分的に高度な検証方法を用いて安全性の確認を行います。

ほとんどの耐火建築物はルートA

様々な用途・形態に適用が容易なため、耐火建築物の多くはルートAで設計されています。
ルートB、及び、ルートCは、ドームや体育館など室内の可燃物が比較的少なく、天井が高い建物の屋根部分などに適用されることが多く、地上で火災が発生する場所から天井部の木造部分まで十分な距離が離れている場合に採用される適合ルートです。

耐火建築物にしなければいけない特殊建築物

木造の特殊建築物を設計する場合、耐火に関する知識は欠かせません。耐火建築物か準耐火建築物か、そうでないかで大きく設計が変わります。耐火建築物になるかどうかは、「用途」、「規模」、「立地」の3つが関わってきます。

地域や自治体によって、同じ用途でも耐火が準耐火で認められる場合等もありますので、確認をすることが必要です。

用途による制限

まず用途ですが、大まかに分けると以下になります。


耐火建築物
耐火建築物準耐火建築物
用途
階による区分け
床面積合計
床面積合計
劇場、映画館、演芸場
3階以上の階または主階が1階にないもの

客席床面積200㎡以上(屋外観覧席の場合、1000㎡以上)
観覧場、公会堂、集会場
3階以上の階
客席床面積200㎡以上(屋外観覧席の場合、1000㎡以上)
病院、診療所(患者の収容施設があるものに限る)、ホテル、旅館、児童福祉施設等
3階以上の階

2階に病室があるとき2階部分の床面積合計300㎡以上(病院および診療所については2階部分に患者の収容施設があるものに限る)
共同住宅、寄宿舎、下宿4階以上の階

2階部分の床面積合計300㎡以上
学校、体育館、博物館、美術館、図書館、スポーツ練習場等
4階以上の階

2000㎡以上
百貨店、マーケット、展示場、カフェ、飲食店、物品販売業を営む店舗等
3階以上の階
3000㎡以上
2階部分の床面積の合計500㎡以上
倉庫

200㎡以上(3階以上の部分に限る)

1500㎡以上
自動車車庫、自動車修理工場、映画スタジオ等
3階以上の階

150㎡以上



規制による制限

特殊建築物に限らず、規模によって制限が変わります。
高さ13m、または軒高9mを超えるもの、そして、延べ面積3000㎡を超えるものは耐火構造を要求されます。

ただ、一定の防火上の基準を満たすことにより、主要構造部を耐火構造としなくても建築できる場合もあります。

立地による制限

火災の危険を防ぐために、都市計画によって、「防火地域」や「準防火地域」などの地域が指定されます。また、その他に特定行政庁が延焼を防止するために「22条区域」を指定しています。

・防火地域内での制限

2階建て以下で100㎡以内のものであれば、木造でも準耐火建築物にすることができます。


・準防火地域内での制限

2階建て以下500㎡以内のものであれば、耐火・準耐火建築物以外の木造とすることができます。
また、木造準耐火建築物であれば、延べ面積が1500㎡以下の建物が3階建てまで建てられます。

主要構造部は「防火・避難の観点から考えた主要な部分」

耐火建築物とは、主要構造部に耐火性能のある部材が使用される建物です。

ただ、ここで言う主要構造部は「防火・避難の観点から主要な部分」という意味が強く、構造上の主要な部分という定義とは異なります。

木造で建築するには、鉄骨造やRC造に比べて燃えやすい木材(木は火に弱いということではありません)を使って、法規の基準を満たした火災に強い建物をつくる必要があります。

規模や建築基準法、各種基準により、耐火建築物や準耐火建築物の仕様が求められます。

耐火建築物の建築基準法のポイントを整理

建築の主要構造部(壁、柱、梁、床、屋根、階段)に必要な防耐火構造は、「建築地」「建物の用途」「建物の高さ」の3つの規制による構造制限のうち、もっとも厳しい規制が適用されます。

その構造制限によって、今度は建物に必要な防耐火構造が決定します。

建物の防耐火構造には、「耐火建築物」「準耐火建築物」「防火木造」「木造建築物(裸木造)」の4つに分類されます。

耐火建築物は、主要構造部を耐火構造として、延焼の恐れのある部分の外壁開口部に防火設備(防火戸等)を設けたものです。

まとめ

2000年の建築基準法改正以降、必要な性能を満たせば、耐火構造、耐火建築物として扱うことができるようになり、木造建築の可能性が広がりました。

さらに、石こうボードなどで木材を耐火被覆する方法や、燃焼を阻害する素材と木材を組み合わせる方法で、耐火構造の木造部材も登場しています。

木造で施設を計画する際には、建築基準法に加え、関連する条例等を遵守することが求められます。

法律や条例等は常に改正され、その解釈や運用については該当の行政窓口や指定検査確認機関等により異なります。

本コラムの内容は「記事掲載時の一般的な考え方」であることのご了承をお願いします。

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福田 浩史

  • 構造設計一級建築士/コンクリート技士
  • 株式会社木構造デザイン代表取締役社長

1999年三重大学大学院工学研究科・建築学専攻・修士課程修了、同年4月に熊谷組入社、構造設計部に配属。主に鉄筋コンクリート造や鉄骨造の高層マンション、店舗設計など大型建築物の構造設計を担当する。2002年6月エヌ・シー・エヌに移籍し、2020年6月取締役執行役員特建事業部長に就任。年間400棟以上の大規模木造の相談実績を持つ。2020年2月木構造デザインの代表取締役に就任。