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木構造研究室

壁を抜く/広い吹抜け/スキップフロアは、なぜ難しいのか?【構造の専門家が解説】

 こんにちは。中大規模木造に特化した構造設計事務所 木構造デザインの福田です。

 「耐力壁や屋根の構面について詳しく教えてほしい」という声をよくいただきます。「なるべく壁を作りたくない」「吹抜けを広くしたい」という要望がお施主様から多いのでしょう。ただ木造の場合、簡単に壁を抜いたり、吹抜けを広くしたりすることはできません。

 今回、木構造の耐力壁、屋根の構面の考え方について解説します。これから非住宅木造に取り組もうという方は、ぜひ、参考にしていただければと思います。


目次
在来工法って何?
軸材と構面には適用条件がある
どうしても壁を抜きたい時は、ラーメンも検討
まとめ


在来工法って何?

 約一年間、ケーススタディ形式の木構造に関するセミナーを行ってきました。高い階高への対応法や、鉄骨造から木造に置き換える際の注意点、非住宅サイズの庇やバルコニーへの対応法、幼稚園・保育園や倉庫でのロングスパンの対応法などです。

 セミナーで伝えしてきたことはシンプルに言うと、「設計には条件があり、その条件にあった設計をしなければいけない」ということです。

 日本国内で建築をする場合、建築基準法がその主たる設計条件の1つになります。ただ、この建築基準法には、私たちがよく使う「在来工法」という言葉がありません。


建築基準法では、木造建築物は

①施行令3章3節の仕様規定で定める軸組(壁)工法

②仕様規定の壁量計算を除外する、いわゆる集成材ルートの軸組(軸)構法

③枠組壁工法

④丸太組構法

⑤CLTパネル工法

等に分類されています。


 木造住宅のほとんどが、①の「軸組(壁)工法」になります。私たちがよく在来工法と呼んでいるものは、この「軸組(壁)工法」になります。ここで確認してほしいことが1つあります。それは、金物メーカーが販売する梁受け金物を使った建物は、上記の①~⑤のどれに該当するのか?ということです。

 実は、梁受け金物を使っても、①の軸組(壁)工法になります。梁受け金物は、仕口と継ぎ手の欠損を抑えるための補助金物でしかないのです。


中大規模木造に取り組むべき理由とその取り組み方

  • この資料では、下記の内容を紹介しています。
  • どのように非住宅木造に参入するか?
  • なぜ、中大規模木造が注目されているのか?
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  • 中大規模木造で失敗しない5つのポイントとは?

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軸材と構面には適用条件がある

 「軸組(壁)工法」は、仕口と継手を使った架構と、地震・耐風設計のための耐力壁と水平構面で構成されています。軸材(柱・梁など)と構面(鉛直構面と水平構面)で耐力をとるので、それぞれに適用条件があります。そして、その適用範囲に従って設計を進めなければなりません。

 当たり前ですが、「軸組(壁)工法」の適用条件の範囲を超えて、壁を抜いたり、吹抜けを広くしたり、スキップフロアにしたり、という要望に応えることはできません。

 これらの適用条件を明文化し、技術法令の設計根拠としての資料が、グレー本と呼ばれる「木造軸組工法住宅の許容応力度計算」です。グレー本には、梁断面の検定で断面欠損の程度を低減率として検定したり、耐力壁や水平構面のせん断耐力を数値化して、設計の根拠にする指標が書かれています。

 しかし、普通に使用している在来加工は、仕口加工の種類による接合部の検定を細かく数値化がされていません。また、耐力壁や水平構面も、定まった形態と接合仕様によるものだけが壁倍率やせん断耐力を与えられています。「どんな面材でも使える」「自分たちが考案した構面がそのまま使える」というものではないのです。

 また、グレー本には、鉛直構面と水平構面が有効に設置されているか検証する方法が書かれています。壁などの鉛直構面は、地震などの揺れに耐えるために設置します。床や屋根などの水平構面は、地震力に耐えるように耐力壁に対する箱の蓋のような役割をします。そのため、壁と壁を繋ぐ水平構面がしっかりと固まっていなければなりません。

 非住宅木造の場合、住宅よりもバラエティーに富むデザインになることが多く、屋根の段差に天窓があったり、吹抜け等で構面が分断されていたりする場合があります。このような箇所は、力が伝わるような構造にする必要があります。

 デザイン性を重視して、壁を入れたくない、開放的な空間にしたいという要望もあるかもしれませんが、しっかりと力の伝達を考えて設計しなければなりません。

 構面には様々な形態があります。軸組の中に筋違やブレースを入れるようなものや面材を貼って耐力をとるもの、ラーメン構造のように軸だけで持たせるようなものなど、いろいろな手法があります。建物の形態やデザイン性を見ながら、選定します。

どうしても壁を抜きたい時は、ラーメンも検討

 ②の「軸組(軸)工法」は、線材(柱・梁・ブレース)の仕口や継ぎ手で架構を構成しています。告示第1898号と1899号で設計上の要求を示しています。材料は、JAS材などの品質管理された材料を使い、接合部は許容応力度設計で検証しなければなりません。

 ラーメンフレームと呼ばれる「軸組(軸)工法」は、納まりが非常に重要です。柱-梁や柱脚-基礎の接合部が、金物のボルトやドリフトピンなどで、どこから施工打ちされるのか細かく納まりが決められています。

 その設計法や納まりは、特許の縛りのないものが、ほとんどありません。もちろん、一品製作金物を多用することもできますが、その性能値を他社が評価できる方法で示す必要があります(建築学会の木質構造設計規準など)。

 中大規模グレー本で、モーメント抵抗接合の設計手法を2つ公開しています。1つは鋼板挿入ドリフトピン工法で、もう一つが引きボルト式工法です。しかし、そのような複雑な納まりを採用しようとすると、意匠性や設備上での制約が出てしまいます。また、実際に配置寸法や荷重条件を設定して、必要耐力を試算するとなると、現実的ではありません。

 「軸組(軸)工法」で設計したものは、性能の評価を受けた工法のため、多くの実験や設計を重ねています。材料や製造上の条件、施工品質などすべてが公開されておらず、わかる範囲で同材料と寸法で作れば、誰でも同一性能を発揮できるわけではありません。

まとめ

 ここからわかる通り、「軸組(壁)工法」と「軸組(軸)工法」は根本的に条件が違います。壁を抜く、吹抜けを広くする、スキップフロアするのが難しいのは、「軸組(壁)工法」の適用条件が厳しく、その条件に合わせた設計をしなければいけないからです。

 木造の場合、お客様の要望に応えるためには、工法の選定も含めて検討する必要があります。木構造デザインは、構造に関するサポートを行っています。非住宅木造専門ですので、在来軸組工法、大断面集成工法、2×4工法、金物工法、CLT工法まで、多種多様な工法をサポートしています。相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。

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福田 浩史

  • 構造設計一級建築士/コンクリート技士
  • 株式会社木構造デザイン代表取締役社長

1999年三重大学大学院工学研究科・建築学専攻・修士課程修了、同年4月に熊谷組入社、構造設計部に配属。主に鉄筋コンクリート造や鉄骨造の高層マンション、店舗設計など大型建築物の構造設計を担当する。2002年6月エヌ・シー・エヌに移籍し、2020年6月取締役執行役員特建事業部長に就任。年間400棟以上の大規模木造の相談実績を持つ。2020年2月木構造デザインの代表取締役に就任。