昨年の10月、臨時国会で菅義偉前総理が「2050年カーボンニュートラル」を宣言し、2030年に温室効果ガスの排出量を46%削減する「地球温暖化対策計画」を閣議決定しました。
住宅業界も今後、温室効果ガス削減の取り組みが必須になります。
というのも、温室効果ガスは、産業部門、業務その他部門、家庭部門、運輸部門、エネルギー転換部門の5部門が大部分を排出し、住宅が関わる家庭部門は13年度比で66%の削減を目標にしています。
「地球温暖化対策計画」の家庭部門の取り組みには、「住宅の省エネルギー性能の向上等を図るとともに、国民が地球温暖化問題を自らの問題として捉え、ライフスタイルを不断に見直し、再生可能エネルギーの導入、省エネルギー対策、エネルギー管理の徹底に努めることを促す」とあり、「家庭で使用される機器の効率向上・普及やその運用の最適化を図ることにより家庭部門のエネルギー消費量の削減が図られる」と明記されていています。
中大規模木造に取り組むべき理由とその取り組み方 この資料では、下記の内容を紹介しています。
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家庭部門が強調される理由は、石油危機以降、産業部門はエネルギー消費量を2割近く削減したのに対し、2倍に増加してしまったためです。
欧米に比べ遅れていると言われる住宅の省エネ化が一気に進む可能性があります。
脱炭素社会の潮流に住宅・建築物が明確に位置付けられ、社会インフラとしての機能が今まで以上に求められています。
特に、環境負荷低減で重要な位置づけになるのが建築物の木造化です。
木造はRC造や鉄骨造に比べ環境負荷が少ないです。
ただ、低層住宅の大部分が木造なのに対し、非住宅はほとんどが非木造です。
そのため、木造化が促進されることを見越して、大手ゼネコンが積極的に参入しています。
今後、中大規模施設の木造化は本格的な普及期に入ることが予想されます。
一般の人にとって、木を伐採することは「森林破壊」と思われがちです。
先日もテレビ番組で、間伐材を使った雑貨販売でエコをアピールする企業を紹介していたが、客にインタビューすると、なぜエコなのかを理解していませんでした。
ポスターやポップの「エコ」という言葉だけが独り歩きし、企業の想いと、顧客との間にギャップができています。
このことからも分かる通り、まだまだ「なぜ木を切ることがエコなのか」というベーシックなところから、ユーザーに伝えていく必要があります。
木は年を取ると、CO2を吸収しなくなります。
そのため、伐採し植林することで森林を若返らせなければならなりません。
現在、人工林の半数が樹齢50年以上と言われ、このまま高齢化を放置すると森林のCO2吸収量は
将来的に減少していきます。
日本のCO2吸収量の割合は、大部分が森林と木材の製造物のため、2050年カーボンニュートラルを考えると森林の若返りは重点課題です。
そして、ここで重要になるのが木材の製造物が、CO2吸収量に含まれるということです。
木は大気中の二酸化炭素を吸収して成長する。
そして吸収された炭素は木の中に貯蔵されます。
木材でつくられた製品は燃やさない限り、炭素を大気中に放出しません。
そのため、身の回りに木の製品が増えれば増えるほど、炭素が貯蔵されることになります。
これを炭素貯蔵効果と呼びます。
木の製品である木造の建物は森林と同じでCO2を固定化し続けます。
特に、非住宅は住宅とは比べものにならない量の木材を使用します。
非住宅の木造化を国が促進する理由はここにあります。
昨年の6月に「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律案」が参院本会議で可決されました。
これにより、今年の4月からコンビニやスーパーのフォークやスプーン、ホテルや旅館のヘアブラシや歯ブラシ、カミソリなどが有料化されます。
レジ袋に加え、スプーンやフォークも有料化となると、否が応でも身近なところから環境問題への対応を迫られるようになります。
今、サステナブル消費という言葉があるほど、地球環境に配慮した消費活動が一般的になっています。
環境を考えずに仕事ができない、そんな時代がすぐそこまできています。
非住宅の木造化は抗えない流れの中にあります。
住宅が右肩下がりになろうとする今、工務店が培ってきた技術を生かすことができる唯一の市場が非住宅木造です。
ここに大きな取り組むべき理由があります。
福田 浩史
1999年三重大学大学院工学研究科・建築学専攻・修士課程修了、同年4月に熊谷組入社、構造設計部に配属。主に鉄筋コンクリート造や鉄骨造の高層マンション、店舗設計など大型建築物の構造設計を担当する。2002年6月エヌ・シー・エヌに移籍し、2020年6月取締役執行役員特建事業部長に就任。年間400棟以上の大規模木造の相談実績を持つ。2020年2月木構造デザインの代表取締役に就任。